「物理学」カテゴリーアーカイブ

信号と窓関数

以下のPDFにまとめました。
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/supplement_data/signal/signal.pdf

周期的な信号に含まれるエネルギーは無限となってしまいます。
これは信号が無限続くためであり、意味がある量は時間当たりのエネルギー、すなわちパワーが重要な指標となります。

また、パワーを測定するためには無限の時間測定を実施しなければなりませんが、現実で測定を行う場合、必ず有限の時間で行われます。
そのため、有限の時間で行われた測定結果を無限に続く信号の結果に焼き直す必要があります。

無限の信号を切り出す操作を、信号に窓関数を掛ける、と表現します。
有限の時間の場合、歪められることを意味するため、この両者の関係は正確に対応付けなければなりません。

本稿はこの対応付けについて言及いたします。

また、窓関数の選び方によって本来の信号の歪められ方が変わってきます。何かの特徴が無限の信号を測定した場合に限りなく近くなる窓関数や、別の特徴が近づく窓関数などがあります。

上記のPDF内に示したFortran90によるプログラムは、以下においてあります。
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/supplement_data/signal/signal_spectrum.tar.gz

(以下、PDF内の抜粋です。)

群速度・位相速度と群遅延・位相遅延

本稿では簡単にまとめのみを載せます。
詳細は以下のPDFにまとめていますので、ご参照ください。
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/supplement_data/groupphase_velocitydelay/group_phase_velocity_delay.pdf

本編では、なぜインパルス応答と初期状態の畳み込みが応答になるのか、なぜ畳み込みが出てくるのかを数式でおおよそ説明しています。

まとめ


分散関係\(\omega = \omega(k)\)を満たす媒質中で、波\(f\)が位置\(x\)と時間\(t\)の変数として書けている場合、
波\(f(x,t)\)は
\(\displaystyle
f(x,t)=\int \frac{dk}{2\pi} f(k) e^{ikx} e^{-i\omega(k) t}
\)

と書けます。特に\(k=k_0\)周りしか波が存在しない場合、波は
\(\displaystyle
f(x,t)=A(x-v_g t)e^{ik_0 (x-v_p t)}
\)

と書けます。ここで、\(A(x)\)は波数\(k\ll k_0\)でしか値を持たないゆっくり振動する波です。また\(v_g, v_p\)はそれぞれ群速度、位相速度を表し、以下の式で表されます。
\(\displaystyle
v_g\equiv \omega'(k_0)=\frac{d\omega}{dk}\biggr|_{k=k_0},~~~v_p\equiv \frac{\omega(k_0)}{k_0}
\)

均一な媒質中の一部に存在する別の媒質の特徴が、インパルス応答\(G(k)\)で書かれるとします。
すると、別の媒質に入射する波\(f_0(x,t)\)が、透過すると波$g(x,t)$は
\(\displaystyle
g(x,t)\Bigr|_{t\to\infty}=|G_0|A\left(x- v_g t+\varphi’_0\right)
e^{ik_0 x -i\omega_0 t + i\varphi_0}
\)

と書けます。ここで、\(G(k)=|G(k)|e^{i\varphi(k)}\)であり、
\(\displaystyle
|G_0|\equiv G(k_0),~~\varphi_0\equiv \varphi(k_0),~~\varphi’_0\equiv \frac{d \varphi(k)}{d k}\biggr|_{k=k_0}
\)

と定義しています。
ある位置でしか波形を見ない場合、相互作用の影響は時間的な遅れとして観測され、
これらを群遅延、位相遅延と呼び、次の通り定義されます。
\(\displaystyle
\begin{align}
t_g&=\frac{1}{v_g}\varphi’_0 = -\frac{d\varphi(\omega)}{d\omega}\Bigr|_{\omega=\omega_0} \\
t_p&=\frac{1}{v_p}\varphi_0 = -\frac{\varphi(\omega_0)}{\omega_0}
\end{align}
\)

別の媒質に侵入すると、波の形が崩れてしまいます。その効果は\(\varphi”(k)\)で表現することができます。
\(A(x)=e^{-(x/a)^2}\)で書かれる場合、透過した波\(g(x,t)\)は
\(\displaystyle
g(x,t)\Bigr|_{t\to\infty}=|G_0| e^{ik_0x-i\omega_0 t +i\varphi_0} \cdot
\frac{a}{(a^2-2i\varphi”_0)^{1/2}}e^{-\frac{(x- v_g t+\varphi’_0)^2}{a^2-2i\varphi”_0}}
\)

と書かれ、波の形が崩れていることが分かります。

電磁場中の荷電粒子に対する非相対論的シュレーディンガー方程式から双極子近似まで

本稿では電磁場中の荷電粒子に対する非相対論的シュレーディンガー方程式から双極子近似についてまで説明を行います.

ここでは目的と結論しか載せませんので、詳しくは以下のPDFをご覧ください。
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/supplement_data/nrtdse_in_electromagneticfields/oneElectronAtom_electricField.pdf

目的と結論


自由粒子に対する非相対論的シュレーディンガー方程式

からスタートして, 電磁場中の荷電粒子に対する非相対論的シュレーディンガー方程式

を導きます\((\mathbf{A}=\mathbf{A}(\mathbf{r},t), \phi=\phi(\mathbf{r},t))\).

その後, クーロンゲージ\((\nabla\cdot \mathbf{A}=0)\)を満たす\(\chi(\mathbf{r},t)\)を選び, かつ双極子近似\((\mathbf{A}\approx\mathbf{A}(t))\)を採用した場合に電磁場中の一電子原子の電子(電荷\(q=-e\))に対する, 速度ゲージ (Velocity gauge) , 長さゲージ (Length gauge) における真空中の非相対論的シュレーディンガー方程式



を導きます.ここで\(H_0\)は電磁場のない空間における原子のポテンシャルです. 式(3a)は速度ゲージ, 式(3b)は長さゲージにおける非相対論的シュレーディンガー方程式と呼ばれています. 双極子近似である式(3a), (3b)は, \(\mathbf{A}^2\)を含む非線形項を無視するので, 一光子過程しか考えない( 多光子過程が起こらない)という近似が入っています.

本稿の主な参考文献は,
B. H. Bransden and C. J. Joachain, 2003, “Physics of Atoms and Molecules second edition” , Prentice Hall, ISBN 0-582-35692-X
の第4章”Interaction of one-electron atoms with electromagnetic radiation”を元にしていますので, 正確な文章を希望する方はこちらをご参照ください.

クンマーの微分方程式とラゲール陪多項式

量子力学を学ぶ上で出てくる合流型超幾何関数。またはクンマー関数は学部生にとって一つのハードルとなるでしょう。
同時に、ここまで数学と物理学が密接にかかわっているんだ、ということを実感させられるきっかけでもあります。
量子力学の習い始めは、ラゲール陪多項式、ルジャンドル多項式、エルミート多項式等だけで済みますが、散乱問題などに入ると更に一般化した合流型超幾何関数が出てきます。

本稿では概要だけ示し、詳細は以下のPDFに記述しておりますので、ご覧ください。
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/supplement_data/laguerre/LaguerrePolynomial.pdf

通常は考えない原点非正則な解も示しております。

クンマーの微分方程式


クンマー(Kummer)の微分方程式
\(
\begin{align}
\left[z\frac{d^2 w}{dz^2}+(b-z)\frac{dw}{dz}-aw\right]=0
\end{align}
\)

を考えます。クンマーの微分方程式の一般解の一つの組み合わせは、
クンマー関数\(M(a,b,z)\)とトリコミ(Tricomi)の関数\(U(a,b,z)\)を用いて
\(
\begin{equation}
w=c_1 M(a,b,z)+c_2 U(a,b,z),~~(b\ne -n)
\end{equation}
\)

と書かれます。それぞれの関数は、
\(
\begin{eqnarray}
M(a,b,z)&=&\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(a)_k}{(b)_k}\frac{z^k}{k!} \nonumber \\
&=&1+\frac{a}{b}z+\frac{(a)_2}{(b)_2}\frac{z^2}{2!}+\cdots+\frac{(a)_k}{(b)_k}\frac{z^k}{k!}+\cdots \label{Mabz}\\
U(a,b,z)&=&\frac{\pi}{\sin(\pi b)}\left[\frac{M(a,b,z)}{\Gamma(1+a-b)\Gamma(b)}-z^{1-b}\frac{M(1+a-b,2-b,z)}{\Gamma(a)\Gamma(2-b)}\right]
\end{eqnarray}
\)

という性質を持ちます。ここで、\((a)_n\)はポッホハマー記号(Pochhammer symbol)で、
\(
(a)_k=\frac{\Gamma(a+k)}{\Gamma(a)}
\)

と書け、特に$a, k$が整数であるならば、
\(
(a)_k=a(a+1)(a+2)\cdots(a+k-1),~~(a)_0=1
\)

を意味します。

ラゲールの微分方程式


特に、クンマー方程式の引数が\(a=-n, b=\alpha+1,~(n\mbox{は0以上の整数}, \alpha\mbox{は}-1\mbox{以上の実数})\)とする場合、原点正則な解はラゲールの陪多項式で書くことができます。
ラゲールの陪多項式を級数であらわに書けば、
\(
\begin{align}
L_n^{(\alpha)}(x)=\sum_{m=0}^{n}(-1)^m\binom{n+\alpha}{n-m}\frac{1}{m!}x^m
\end{align}
\)
となります。

ちなみに、ラゲールの微分方程式の原点非正則な解は
\(
\begin{eqnarray}
&&U'(-n,\alpha+1,z) \nonumber \\
&&=\sum_{k=1}^\alpha \frac{\alpha!(k-1)!}{(\alpha-k)!(1+n)_k}z^{-k}
-\sum_{k=0}^{n}\frac{(-n)_k}{(\alpha+1)_k }\frac{z^k}{k!} (\ln(z)+\psi(1+n-k)-\psi(1+k)-\psi(\alpha+k+1)) \nonumber\\
&&\hspace{18em}+(-1)^{1+n}n!\sum_{k=1+n}^{\infty}\frac{(k-1-n)!}{(\alpha+1)_k }\frac{z^k}{k!} \nonumber \\
\end{eqnarray}
\)

と書くことができます。

参考文献


M. Abramowitz and I. A. Stegun, Handbook of Mathematical Functions,
(Dover Publications Inc., New York, 1972),https://personal.math.ubc.ca/~cbm/aands/toc.htm

NIST Digital Library of Mathematical Functions
https://dlmf.nist.gov/

クーロンポテンシャルによる散乱(量子力学)

詳細


本稿では概要だけを説明し、導出過程や詳細は以下のpdfで説明します。
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/wp-content/uploads/2021/08/scattering_coulomb.pdf

概要


電荷\(q_A\)を持つ原子核に、遠方から\(q_B\)を持つ電子が衝突する過程を考えます。
例えば、水素原子の原子核である陽子1個(\(q_B=+e\), eは電気素量)に対し、遠方から電子(\(q_A=-e\))が衝突する過程です。
図で表せばこのような感じです。

相対座標に対する時間依存しないシュレーディンガー方程式は、

と書くことができます。ここで、\(\hbar\)はプランク定数、\(\varepsilon_0\)は真空の誘電率、\(\mu\)はAとBの換算質量を表し, \(E\)は衝突のエネルギーを表します。
簡単にするために係数をまとめて

と書きます。ここで、

という量を定義しました。
これから、波数\(k\)で定義される平面波が入射したらどのように応答するか?を知りたいので、式(1)を境界条件

の下で解いていきます。

導出した結果は、

となります。この展開は\(|r-z|\to 0\)となる\(z\)軸上もしくはz軸近傍では使えないことを注記しておきます。元々の境界条件(4)は、\(z\to -\infty\)だけで決まっており\(x,y\)には条件はありませんが、結論として得られるものは\(z\)軸からは離れた領域でなければならない、とより制限された範囲でのみ導ける、となっています。

ここで

であり、\(\gamma\)はSommerfeld parameterと呼ばれる量であり、\(\nu=\frac{\hbar k}{\mu}\)は2粒子間の相対速度を表しています。また、

はクーロン散乱振幅と呼ばれる量であり、波数\(k\)を持って入射した平面波が、入射方向に対して角度\(\theta\)方向にどれだけ球面波が歪むか?を表す量です。

導出過程や詳細は以下のpdfで説明しています。
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/wp-content/uploads/2021/08/scattering_coulomb.pdf

本稿では、散乱状態の導出にとどめております。
解釈、流束などについては、次回説明します。

古典的な一次元波動方程式のグリーン関数

本稿のpdfはこちらをどうぞ
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/wp-content/uploads/2021/08/Green_1dclassical5.pdf

問題


古典的な一次元波動方程式で、非斉次項を持つ問題

を解くことを考えます。この形は、有限範囲内しか相互作用を引き起こさない物に十分遠方から波が入射してきた場合を考える際に現れたりします。

この形の方程式が出てくる状況を考えてみましょう。

の問題を考えます。移項して

ですので、グリーン関数を用いると

となります。ここで、

を満たす関数(一般解)であり、グリーン関数を
で与えられます。ここを満たす関数(特殊解)としました。
式(4)の右辺に解\(f(x,t)\)が含まれていますが、このままの形でとどめておきます。この形にしておくと、ほかの式に\(f(x,t)\)をダイレクトに代入できたり、近似を使うときに便利な形です。

(式(7)はありません)

本稿の目的は、\(\hat{D}\)が\(\hat{D}=\frac{\partial^2}{\partial t^2}-a\frac{\partial^2}{\partial x^2}\)で与えられている場合に、\(G(x,t; x’,t’)\)の具体的な形を導出することです。

導出


今、解きたい問題は、

です。デルタ関数をそのまま扱う場合、積分が絡んでこないと扱うのが難しいです。そうでなければ、フーリエ変換を用いて波数・周波数空間で解いていくのが良いでしょう。グリーン関数や、デルタ関数のフーリエ変換を考えると

となります。ここで、基底関数が\(e^{ikx}, e^{-i\omega t}\)と符号が異なることに注意しましょう。
また、積分区間はいつも負の無限大から正の無限大であり、いちいち書くのは面倒なので省略しています。
フーリエ変換として考えるのではなく、基底関数へ射影した時の係数と考えましょう。

実際に式(8)に代入すると

となります。

ここで\(e^{i[k(x-x’)-\omega(t-t’)]}\)はゼロにならないので、その前の項[ ]内がゼロにならなければなりません。よって

が導けます。よって式(9)に代入して

が計算できれば位置と時間のグリーン関数が得られます。

さて、この積分を計算してみましょう。
右辺の\(e^{i\omega t}/\omega\)の形を持つ積分は複素関数論において頻出する積分です。この積分の特徴として、\(\omega\)に渡る積分を実軸上で実行する際に、たまたま\(\omega=\pm \sqrt{a}k\)に等しい点を通ってしまうため、実軸上では被積分関数が発散する、という特徴があります。この発散する点は極と呼ばれており、積分を行う際に積分経路をうまく選んで極を迂回しなければなりません。しかし、厄介なことに極を上に回るか下に回るかで積分結果が変わってしまいます。

もし、天才でしたら当たり前のように適切な積分経路をすぐに思いつくでしょうが、我々凡人には具体的に試してみるくらいしか思いつきません。ですのでちょっとズルしながら因果律を満たす解を探しましょう。

今、我々はグリーン関数について考えています。ということは、計算した結果の境界条件は、因果律を満たすような結果が欲しいわけです。
つまり、グリーン関数が得られた場合、$\theta(t-t’)$の形が出てくるであろうことは予想できます。そのため、これを考慮して極を回る方向を考えてグリーン関数を求めていきましょう。

式(14b)の第一項

について考えます。ヘヴィサイド関数を積分表記で表すと、

と書けることを使います。ここで\(i\)は虚数単位です。もう嬉しいですね。かなり似通った形であることが分かるでしょう。
式(16)の形に持っていくためには変数変換を行えば良さそうです。つまり、極は上に回れば因果律を満たすグリーン関数が得られそうです。

では具体的に計算していきましょう。変数変換\(y=\omega+\sqrt{a}k\)を使って、

となります。分母に\(+i\varepsilon\)を加えるようにして

と求めることができます。

続いて式(14b)の第二項

についても同様に計算していきましょう。変数変換\(y=-\omega+\sqrt{a}k\)を使って、

ヘヴィサイド関数を考えると、

の形が使えそうです(式(16)の\(\omega\to-\omega\)の変数変換ですね)。ですので、

と求められます。

式(18c)と式(22c)より、式(14b)に代入すると

となります。

さて、\(\frac{\sin x}{x}\)の形はsinc関数と呼ばれているほど面白い性質を持つ関数です。そのフーリエ変換は矩形になることが知られています。その計算は実際に
\begin{align}
\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\sin(k)}{k}e^{ikx}\frac{dk}{2\pi}=\frac{1}{2}\Bigl[\theta(x+1)-\theta(x-1)\Bigr]
\end{align}
となります。

立ち戻り、変数変換\(\kappa=\sqrt{a}k(t-t’)\)を考えれば、

と、グリーン関数が求められました。グリーン関数は\(x-x’, t-t’\)の形をしていることが分かります。そのため、

と書いても良いことが分かるでしょう。ここで、

です。

まとめと補足


まとめ


まとめますと、偏微分方程式

の因果律を満たす解は、

となります。以上から、波動方程式

の因果律を満たす一般解は

となります。

補足


補足します。因果律を満たすグリーン関数である、ということが暗に意味される場合、積分(29a)の時間に渡る積分はグリーン関数に含まれるヘヴィサイド関数を先に利用して、

と積分範囲を組み込んで表記する場合があります。実際の例が式(29c)であり、その時間積分の積分範囲のようになることを見越している、ということです。

少しグリーン関数の物理的な意味を考えてみましょう。
グリーン関数は、ある特定の時刻、ある特定の位置でデルタ関数という非常に特殊な衝撃が生じた結果を記述します。
言い換えれば、偏微分方程式で表されている系が、デルタ関数によってどのような応答を起こすか?という関数です。

式(27b)を見てみると、1つのヘヴィサイド関数\(\theta(t-t’)\)と1つの矩形関数\(\text{rect}\left(\frac{x-x’}{2\sqrt{a}(t-t’)}\right)\)が使われています。
\(\theta(t-t’)\)の部分は、まさに因果律を示しており、衝撃が加わる前の時刻\((t-t’ \lt 0)\)においては系の応答は無いよ、ということを表しています。至極全うでしょう。

矩形関数の部分は、衝撃が生じた後にその衝撃は波及する範囲を表しています。具体的に、時刻\(t=t’\), 位置\(x=x’\)において衝撃が生じた場合、矩形関数の中身が値を持つ範囲は\([x’-\sqrt{a}(t-t’), x’+\sqrt{a}(t-t’)]\)の範囲です。つまり、衝撃が時々刻々と広がっていることを示しています。グリーン関数を図示すると、このような感じです。

衝撃が加わる\(t=0\)を境にグリーン関数が値を持ち始め、それが時間とともに広がっていくのが分かると思います。

ついでにグリーン関数の広がる速度を計算してみましょう。

矩形関数の中身が値を持つ範囲\(x\)は、時間\(\Delta t=t-t’\)の間に、距離\(x-x’=\pm \sqrt{a}(t-t’)\)だけ波及しますから、衝撃の結果が速度\(\pm\sqrt{a}\)で広がっていることが分かります。
これは、古典的な波動方程式でよく知られているように、系の速度が

の系の速度は\(\pm\sqrt{a}\)である、という事実と一致します。
つまり、衝撃が加わった時刻以外では、系そのものの性質しか存在しませんので、衝撃が波及していく速度が一致することは何ら不思議ではありません。むしろ、一致しなければなりません。

デルタ関数、ヘヴィサイド関数に関係する数式

本稿のpdfはこちら
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/wp-content/uploads/2021/08/Green_related_functions1.pdf

定義


ヘヴィサイド関数

符号関数

矩形関数

デルタ関数

デルタ関数\(\delta(x)\)は、

を満たす関数です。この定義式を満たす場合、デルタ関数は以下の性質を持つことが分かります。

フーリエ関数

性質、関係式


積分表示

定積分が関係する場合


デルタ関数

ヘヴィサイド関数


sinc関数に関係する式

畳み込み積分


位相速度、群速度とは!?調べてみました!!(パロディ)

近頃SNSやインターネットでよく見る言葉、「位相速度」「群速度」

元ネタや原理を分かった気になって使っている方、多いのではないでしょうか。
せっかくなので調べてみました!!!

(数式で殴りに殴ったものを以下のページに書きました。真面目に詳細を知りたい方はこちらをどうぞ。)
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/group-phase-velocity-delay/

  1. そもそも「位相速度」「群速度」って何?
  2. 学会騒然。ある波数近傍だけ値を持つ場合にテーラー展開!?
  3. 位相速度はどうやって!?驚きの仮定
  4. 簡単だと思いました?注意です!
  5. いろいろなところに群速度に関する議論が!
  6. 最後に
  7. Note

そもそも「位相速度」「群速度」って何?


なにはともあれwikipedia!!
関連するキーワードをササッと知るには強い味方です。
「位相速度」「群速度」を調べるとこのように説明されていました。

群速度(ぐんそくど、英: group velocity)とは、複数の波を重ね合わせた時にその全体(波束)が移動する速度のことである。

群速度 -wikipedia

位相速度(いそうそくど、英語: phase velocity)は、位相、すなわち波の山や谷の特定の位置が移動する速度のことである。

位相速度 -wikipedia

どうやら、波束波の速度を表現する際に都合が良い言葉なようです。

波束とは何なのでしょう…?また変な言葉が出てきました。wikipediaの出番です!!

波束(はそく、英: wave packet, wave train)は、局所的に存在する波うち/波動であり、移動する1個の波動の塊のようにふるまう。

波束 -wikipedia

うーん、つまり一回だけ波打って、ある程度まとまった波みたいなものですかね。
水面に水が一滴だけ落ちたときに発生する波みたいなものでしょう。

具体的にどういう意味なのでしょうか。気になりますよね!

皆さんも群速度、位相速度の導出が気になったら「tweet」、お願いします!

学会騒然。ある波数近傍だけ値を持つ場合にテーラー展開!?


角周波数が波数の関数として書けている場合、分散関係があるといいます。
つまり、角周波数\(\omega\)が波数\(k\)に依存して\(\omega=\omega(k)\)と書けている場合、波形のほとんどは

とように書けます!!
本来、位置\(x\)と時間\(t\)で書ける関数は、\(k\)と\(w\)の二重積分で表現されなければなりませんが、分散関係のおかげで\(\omega\)が強制的に決まってしまうので、一重積分で良くなるのですね!
うーん、とても嬉しい!!!!

…でも、あまりに一般的過ぎて分かりませんね。
しかし!!
応用で重要なのは、ゆっくり振動する包絡線早く振動する波掛け算で表されていることが多いのです。

つまり、これから考える波が持つ波数は、\(k= k_0\)の周りしか値を持たないのです。ここで、早く振動する波の波数を\(k_0\)と置きました。

\(k_0=5\)の場合、これから考えていく\(f(k)\)はこんな感じの特徴を持っています!ババン!

こんな特徴を持つのならば、\(k=k_0\)以外ではどうせ\(f(k)\to 0\)となるので、考えてもしょうがないっていう近似が使えそうですよね。

そ こ で !

波数\(k=k_0\)周りでいろいろテーラー展開して使用していきます。つまり、\(k=k_0\)の近傍さえ合っていれば、\(k_0\)以外でどんな振る舞いになろうとも\(f(k)\)がゼロになるので大丈夫でしょう!ということです。

早速、分散関係についてテーラー展開を行うと

となります。式を簡単に書くために\(\omega'(k_0)\equiv \frac{d\omega}{dk}\bigr|_{k=k_0}\)と置きました。

計算を進めると、

より、

のように書けます。つまり、式(4)が言っていることは、
時刻\(t\)の波形とは、初期状態\(t = 0\)の波形 \(f(x,0)\)を\(\omega'(k_0)t\)だけ平行移動させた波に、時間だけに依存する位相に関する変化分 \(e^{−i[\omega(k_0)−k_0 \omega'(k_0)]t}\)が掛け合わされたもの、と表すことができる。と言っています。

以上から、初期状態の波が時刻\(t\)に至るまでの速度は\(\omega'(k_0)\)で決まることが分かり、これは
群速度
と呼ばれます!!

位相速度はどうやって!?驚きの仮定


さて、ここまでで群速度が求まりましたが、位相速度が求められていません。
そこで、もう少し具体的な波の形を定義しましょう。
波が、

と書けている場合を想定します。ここで、振幅\(A(x,t)\)は実数値関数で波の包絡線を表しています。また\(A(x,t)\)の変化は \(k_0\) に比べて非常にゆっくり変化しているものとします。
つまり、

今まで考えてきた仮定が全部使える

んですね!

式(5)に代入しますと

となります。つまり、振幅の変化はいつも初期状態の単なる平行移動として表現することができ、位相の変化も簡単に表せられます。

そこで、振幅が平行移動する速度を群速度\(v_g\)、位相が平行移動していく速度を位相速度 \(v_p\) として定義すると、 式(6c) よりそれぞれ

と定義してしまうのが良さそうです!

簡単だと思いました?注意です!


注意しなければならないのは、群速度と位相速度の概念は、

振幅と位相を記述する部分がはっきりと区別できるような状況でなければ、定義できない

ということです!振幅部が早く振動していたら、これまでの議論が使えなくなることに注意しましょう。
その場合、群速度と位相速度の概念が変わってしまうので、意味をなさなくなってしまいます。

いろいろなところに群速度に関する議論が!


様々なところにリンクがあります。やはり皆、群速度の概念を理解するのに苦労しているようですね。

群速度の謎 -平林 浩一, (C) 2006

「yam@広島大」物理化学Monographシリーズ ”3. 物体の速度と物質波の速度 -E=hνの本質の理解-”

最後に


いかがでしたか?気に入ったなら是非、記事の下にある「like!」ボタンや「tweet」して皆さんに共有して下さいね!
それでは皆さん、良い物理ライフを!

Note


本記事の大枠の構成はいかがでしたか? -ニコニコ大百科を参照しています。

再学習用の電磁気学

電磁気学を可能な限り短くまとめました。電磁気学を一度学んだ方の再学習用を想定しています。
歴史を追うような考えをしていません。なので、証明には「なるからなる」を多く取り入れています。
経緯を知りたい方は各種参考書をご覧ください。

https://slpr.sakura.ne.jp/qp/wp-content/uploads/2021/02/electromagnetism.pdf

electromagnetism

間違いがありましたら、コメントなどいただけると助かります。

水素原子の原点に電子を見出すか?

問題


水素原子の電子の基底状態において、原点に電子を見出すことができるでしょうか?

問題設定


非相対論の範囲で、水素原子の電子を考えます。
電子の満たすシュレーディンガー方程式は、プランク定数\(\hbar\),電子の電荷\(e\),電子の質量\(m\)
をそれぞれ\(\hbar=1, e=1, m=1\)とする原子単位系で

と書けます。ここで、\(\nabla\)はデカルト座標系\((x,y,z)\)における微分演算子\(\nabla=\left(\frac{\partial }{\partial x}, \frac{\partial }{\partial y}, \frac{\partial }{\partial z} \right)\)であり、\(\psi(\mathbf{r})\)は波動関数を表します。
規格化は

で行います。特に、これから中心力に対する問題を考えていくので、球面座標系で変数分離を考えます。球面座標系において動径方向\(r(=\sqrt{x^2+y^2+z^2})\)と角度方向\(\theta(=\cos^{-1}(z/r)), \varphi((=\tan^{-1}(y/x)))\)の\((r,\theta, \varphi)\)座標における波動関数は

と書きます。ここで規格化は

とします。過程は飛ばしますが、シュレーディンガー方程式の固有値\(E=-1/2\)に属する基底状態の波動関数は、量子数\((n, l, m)=(1,0,0)\)を持つ状態として指定され、\(R(r)\)は

と書けます。\(\theta, \varphi\)方向の関数は\(Y_{0,0}=({4\pi})^{-1/2}\)ですので、波動関数は

となります。

さて、存在確率密度はどう考えればよいでしょう?
まず規格化から、

と計算されるわけですから、原点からの距離\(r\sim r+dr\)の範囲に電子を見出す存在確率密度\(f(r)dr\)の係数\(f(r)\)は

と書けます。

一方、存在確率密度は波動関数の絶対値二乗ですので、

ですから、位置\((x,y,z)\sim (x+\Delta x,y+\Delta y,z+\Delta z)\)の範囲に見出す確率\(g(x,y,z)dxdydz\)の係数\(g(x,y,z)\)は

と書けます。
さて、ここで疑問が生じます。原点\((x,y,z)=(0,0,0)\)において、電子を見出す可能性はあるのでしょうか?

つまり、動径方向の関数については原点における\(f(0)\)は式(8)より

であり、\(g(0,0,0)\)は式(10)より

と書けるのでどちらが正しいのか?本当に観測を行ったとき、原点で電子を見出すことはあるのか?

という問題です。つまり、グラフにすると以下のようになります。\(g(x,y,z)\)については、\(x=y=0\)としてグラフにしています。

これで注目するのは、原点における値がゼロか有限か?で大きく異なっている点です。

座標系が違うだけで物理が変わることはありませんので、これは解釈の問題です。
現実には原点には原子核があるので原点における電子を観測することはできないので、頭の中で考えます。
結論としては、どちらも正しくて解釈が異なる。そして、原点で電子を見出すことがあっても良いです。
その理由を述べていきます。

考察


まず、数値実験を行い事実を確認します。
デカルト座標系\((x,y,z)\)における波動関数\(\psi(\mathbf{r})=\frac{1}{\sqrt{\pi}}e^{-\sqrt{x^2+y^2+z^2}}\)は紛れもない事実ですので、フォン・ノイマンの棄却法に従って、\((x,y,z)\)空間で一様な変数を作り出し、この確率密度に従った乱数を表示させます。すると以下のような図を得ます。

例えば\(x=0, y=0\)に固定してz軸上の波動関数は、

となりますので、\(z=0\)においてゼロではない有限の値をとるため確率密度が存在しそうなので、原点に電子を見出してもよさそうです。

続いて動径方向の分布を考えましょう。棄却法によって採用された\(n\)番目の点\((x_n,y_n,z_n)\)(図に表示されている点)の原点からの距離\(r_n=\sqrt{x_n^2+y_n^2+z_n^2}\)を調べてみます。そして、\(r\sim r+\Delta r\)の範囲にある点数を数え、観測された個数と原点からの距離の関数を考えます。これは動径分布関数の\(f(r)\)に等しいはずです。すると、以下のような図を得ます。

確かに、確率密度の係数にかかる分布\(f(r)\)になっていることが分かります(最大値を1にするように規格化しています)。

さて、以上の数値実験からやはりどちらも数式通りであり、正しいことが分かりました。
すると解釈の問題でしょう。どのように解釈していけばよいかを考えていきます。

まず動径方向の確率密度\(f(r)dr=r^2R^2(r)dr\)ですが、これは正確には

と書いたほうが良いでしょう。意味は、半径が\(r\sim r+dr\)の間を占める球殻の体積は\(4\pi r^2 dr\)であり、その体積の中に粒子の見出しやすさ\(\frac{R^2(r)}{4\pi}\)が掛かっている、という意味です。

半径が\(r\to 0\)の極限において、式を解釈すると、

球殻の体積がゼロのとき、その中に粒子を見出す確率はいくつか?

という問いになります。見出すことができる体積はゼロなので、体積ゼロの領域に電子を見出すことはできません。なので、

となります。すなわち、\(r^2 dr\)の部分がゼロになるだけで、\(R^2(r)\)の部分は値を持っていても良い、ということになります。少し詳しく言えば、球殻の体積がゼロの時に確率があると確率が無限大になってしまうので、少なくとも\(r\to 0\)で\(R(r)\propto r^{n},~(n>-1)\)であることが課されます。

以上の話が正しければ、原点では体積がゼロなので、電子を見出す確率\(r^2R^2(r)\)は\(r=0\)でゼロ、すなわち電子を見出さない、という結論になりそうです。

これまでの考察を行っても矛盾が生じたままで、何一つ解決していません。
「原点において電子を見出す体積がゼロだから、電子を見出せない」という結論が誤りなのか、もう少し疑ってみます。

体積がゼロでも電子を見出すことがあり得ることを仮定した場合、これはどういう意味を持つでしょうか。

2つの解釈を説明します。

  • 有限の大きさによって、本当の原点に電子を見出すことはない
  • 例えば将来的に超高精度な観測機器ができた場合、原点に電子を見出す場合にしても、現実ではどう頑張ってもプランク長(10^{-35}\mathrm{m})以上の分解能は無いはずです(電子の大きさもありますしね。しかもプランク長以下の長さは物理的な意味がないと言われています。一応、プランク長よりも短くなる長さがあるようですが、無限小よりかは大きいでしょう)。なので、原点に電子を見出した!と思っても、実は原点からほんのちょっとずれているのかもしれません。
    だから、本当の原”点”に電子は見出さないのかもしれません。

  • 点で電子を見出すか、密度を考えるかで区別しなければならない
  • 点自体に体積は無いので、確率密度がゼロだからと言って原点に電子を見出しても良い

二番目の点自体に体積は無いので、確率密度がゼロだからと言って原点に電子を見出しても良い、が正しいと思いますが…すみません。調べたりしたのですが、なかなか目当ての問題や解答がなく、探すのを諦めました。
存在確率密度なので、(体積中の電子を見出す確率)/(見出す体積)ですが、原点であればこの分母がゼロです。
この場合に、原点に電子を見出したからと言って、それは体積でも何でもない0次元の情報ですから、確率「密度」の情報に対応させることができません。なので見出しても問題がないと考えます。

一方、原点以外で波動関数の節となる確率密度がゼロになる点においては体積が有限であり、その点では本当に見出すことは本当の意味でありません。

結論


点自体に体積は無いので、確率密度がゼロだからと言って原点に電子を見出しても良い。

…で合っていると思いますが、明確な参考文献を見つけられませんでした。
メモとして、これまでの考察を書きました。

補足)カスプについて


一つ、本当の原点に電子を見出してしまった場合、ポテンシャルエネルギーが発散しないのか心配になります。
すなわち、ポテンシャルエネルギー項が\(-\frac{1}{r}\)であり、無限大になるので非物理的な気がします。

だからと言って、ポテンシャルエネルギーが発散するから非物理的である、という結論は間違いです。
この原点における発散はカスプ(Cusp)と呼ばれ、運動エネルギーの項と相殺するため、消えてしまう、もしくは消えなければなりません(カスプ条件)。カスプについて説明するために、もう一度シュレーディンガー方程式に立ち返って考えてみます。

左辺のハミルトニアンのポテンシャル項\(-\frac{1}{r}\)は\(r=0\)で発散しています。しかし束縛状態では、波動関数の二乗は電子の存在確率密度ですので、全空間で積分したら有限にならなければなりません。つまり右辺\(E\psi(\mathbf{r})\)は発散してはなりません。
以上から、\(\psi(\mathbf{r})\)は連続でなければならず、\(r=0\)で

を計算したら\(\frac{1}{r}\psi(\mathbf{r})\)の項が出てきてポテンシャルエネルギーの項を打ち消さなければなりません。
波動関数に課されるこの条件は、カスプ条件と呼ばれます。