クーロンポテンシャルによる散乱(量子力学)

詳細


本稿では概要だけを説明し、導出過程や詳細は以下のpdfで説明します。
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/wp-content/uploads/2021/08/scattering_coulomb.pdf

概要


電荷\(q_A\)を持つ原子核に、遠方から\(q_B\)を持つ電子が衝突する過程を考えます。
例えば、水素原子の原子核である陽子1個(\(q_B=+e\), eは電気素量)に対し、遠方から電子(\(q_A=-e\))が衝突する過程です。
図で表せばこのような感じです。

相対座標に対する時間依存しないシュレーディンガー方程式は、

と書くことができます。ここで、\(\hbar\)はプランク定数、\(\varepsilon_0\)は真空の誘電率、\(\mu\)はAとBの換算質量を表し, \(E\)は衝突のエネルギーを表します。
簡単にするために係数をまとめて

と書きます。ここで、

という量を定義しました。
これから、波数\(k\)で定義される平面波が入射したらどのように応答するか?を知りたいので、式(1)を境界条件

の下で解いていきます。

導出した結果は、

となります。この展開は\(|r-z|\to 0\)となる\(z\)軸上もしくはz軸近傍では使えないことを注記しておきます。元々の境界条件(4)は、\(z\to -\infty\)だけで決まっており\(x,y\)には条件はありませんが、結論として得られるものは\(z\)軸からは離れた領域でなければならない、とより制限された範囲でのみ導ける、となっています。

ここで

であり、\(\gamma\)はSommerfeld parameterと呼ばれる量であり、\(\nu=\frac{\hbar k}{\mu}\)は2粒子間の相対速度を表しています。また、

はクーロン散乱振幅と呼ばれる量であり、波数\(k\)を持って入射した平面波が、入射方向に対して角度\(\theta\)方向にどれだけ球面波が歪むか?を表す量です。

導出過程や詳細は以下のpdfで説明しています。
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/wp-content/uploads/2021/08/scattering_coulomb.pdf

本稿では、散乱状態の導出にとどめております。
解釈、流束などについては、次回説明します。

古典的な一次元波動方程式のグリーン関数

本稿のpdfはこちらをどうぞ
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/wp-content/uploads/2021/08/Green_1dclassical5.pdf

問題


古典的な一次元波動方程式で、非斉次項を持つ問題

を解くことを考えます。この形は、有限範囲内しか相互作用を引き起こさない物に十分遠方から波が入射してきた場合を考える際に現れたりします。

この形の方程式が出てくる状況を考えてみましょう。

の問題を考えます。移項して

ですので、グリーン関数を用いると

となります。ここで、

を満たす関数(一般解)であり、グリーン関数を
で与えられます。ここを満たす関数(特殊解)としました。
式(4)の右辺に解\(f(x,t)\)が含まれていますが、このままの形でとどめておきます。この形にしておくと、ほかの式に\(f(x,t)\)をダイレクトに代入できたり、近似を使うときに便利な形です。

(式(7)はありません)

本稿の目的は、\(\hat{D}\)が\(\hat{D}=\frac{\partial^2}{\partial t^2}-a\frac{\partial^2}{\partial x^2}\)で与えられている場合に、\(G(x,t; x’,t’)\)の具体的な形を導出することです。

導出


今、解きたい問題は、

です。デルタ関数をそのまま扱う場合、積分が絡んでこないと扱うのが難しいです。そうでなければ、フーリエ変換を用いて波数・周波数空間で解いていくのが良いでしょう。グリーン関数や、デルタ関数のフーリエ変換を考えると

となります。ここで、基底関数が\(e^{ikx}, e^{-i\omega t}\)と符号が異なることに注意しましょう。
また、積分区間はいつも負の無限大から正の無限大であり、いちいち書くのは面倒なので省略しています。
フーリエ変換として考えるのではなく、基底関数へ射影した時の係数と考えましょう。

実際に式(8)に代入すると

となります。

ここで\(e^{i[k(x-x’)-\omega(t-t’)]}\)はゼロにならないので、その前の項[ ]内がゼロにならなければなりません。よって

が導けます。よって式(9)に代入して

が計算できれば位置と時間のグリーン関数が得られます。

さて、この積分を計算してみましょう。
右辺の\(e^{i\omega t}/\omega\)の形を持つ積分は複素関数論において頻出する積分です。この積分の特徴として、\(\omega\)に渡る積分を実軸上で実行する際に、たまたま\(\omega=\pm \sqrt{a}k\)に等しい点を通ってしまうため、実軸上では被積分関数が発散する、という特徴があります。この発散する点は極と呼ばれており、積分を行う際に積分経路をうまく選んで極を迂回しなければなりません。しかし、厄介なことに極を上に回るか下に回るかで積分結果が変わってしまいます。

もし、天才でしたら当たり前のように適切な積分経路をすぐに思いつくでしょうが、我々凡人には具体的に試してみるくらいしか思いつきません。ですのでちょっとズルしながら因果律を満たす解を探しましょう。

今、我々はグリーン関数について考えています。ということは、計算した結果の境界条件は、因果律を満たすような結果が欲しいわけです。
つまり、グリーン関数が得られた場合、$\theta(t-t’)$の形が出てくるであろうことは予想できます。そのため、これを考慮して極を回る方向を考えてグリーン関数を求めていきましょう。

式(14b)の第一項

について考えます。ヘヴィサイド関数を積分表記で表すと、

と書けることを使います。ここで\(i\)は虚数単位です。もう嬉しいですね。かなり似通った形であることが分かるでしょう。
式(16)の形に持っていくためには変数変換を行えば良さそうです。つまり、極は上に回れば因果律を満たすグリーン関数が得られそうです。

では具体的に計算していきましょう。変数変換\(y=\omega+\sqrt{a}k\)を使って、

となります。分母に\(+i\varepsilon\)を加えるようにして

と求めることができます。

続いて式(14b)の第二項

についても同様に計算していきましょう。変数変換\(y=-\omega+\sqrt{a}k\)を使って、

ヘヴィサイド関数を考えると、

の形が使えそうです(式(16)の\(\omega\to-\omega\)の変数変換ですね)。ですので、

と求められます。

式(18c)と式(22c)より、式(14b)に代入すると

となります。

さて、\(\frac{\sin x}{x}\)の形はsinc関数と呼ばれているほど面白い性質を持つ関数です。そのフーリエ変換は矩形になることが知られています。その計算は実際に
\begin{align}
\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\sin(k)}{k}e^{ikx}\frac{dk}{2\pi}=\frac{1}{2}\Bigl[\theta(x+1)-\theta(x-1)\Bigr]
\end{align}
となります。

立ち戻り、変数変換\(\kappa=\sqrt{a}k(t-t’)\)を考えれば、

と、グリーン関数が求められました。グリーン関数は\(x-x’, t-t’\)の形をしていることが分かります。そのため、

と書いても良いことが分かるでしょう。ここで、

です。

まとめと補足


まとめ


まとめますと、偏微分方程式

の因果律を満たす解は、

となります。以上から、波動方程式

の因果律を満たす一般解は

となります。

補足


補足します。因果律を満たすグリーン関数である、ということが暗に意味される場合、積分(29a)の時間に渡る積分はグリーン関数に含まれるヘヴィサイド関数を先に利用して、

と積分範囲を組み込んで表記する場合があります。実際の例が式(29c)であり、その時間積分の積分範囲のようになることを見越している、ということです。

少しグリーン関数の物理的な意味を考えてみましょう。
グリーン関数は、ある特定の時刻、ある特定の位置でデルタ関数という非常に特殊な衝撃が生じた結果を記述します。
言い換えれば、偏微分方程式で表されている系が、デルタ関数によってどのような応答を起こすか?という関数です。

式(27b)を見てみると、1つのヘヴィサイド関数\(\theta(t-t’)\)と1つの矩形関数\(\text{rect}\left(\frac{x-x’}{2\sqrt{a}(t-t’)}\right)\)が使われています。
\(\theta(t-t’)\)の部分は、まさに因果律を示しており、衝撃が加わる前の時刻\((t-t’ \lt 0)\)においては系の応答は無いよ、ということを表しています。至極全うでしょう。

矩形関数の部分は、衝撃が生じた後にその衝撃は波及する範囲を表しています。具体的に、時刻\(t=t’\), 位置\(x=x’\)において衝撃が生じた場合、矩形関数の中身が値を持つ範囲は\([x’-\sqrt{a}(t-t’), x’+\sqrt{a}(t-t’)]\)の範囲です。つまり、衝撃が時々刻々と広がっていることを示しています。グリーン関数を図示すると、このような感じです。

衝撃が加わる\(t=0\)を境にグリーン関数が値を持ち始め、それが時間とともに広がっていくのが分かると思います。

ついでにグリーン関数の広がる速度を計算してみましょう。

矩形関数の中身が値を持つ範囲\(x\)は、時間\(\Delta t=t-t’\)の間に、距離\(x-x’=\pm \sqrt{a}(t-t’)\)だけ波及しますから、衝撃の結果が速度\(\pm\sqrt{a}\)で広がっていることが分かります。
これは、古典的な波動方程式でよく知られているように、系の速度が

の系の速度は\(\pm\sqrt{a}\)である、という事実と一致します。
つまり、衝撃が加わった時刻以外では、系そのものの性質しか存在しませんので、衝撃が波及していく速度が一致することは何ら不思議ではありません。むしろ、一致しなければなりません。

デルタ関数、ヘヴィサイド関数に関係する数式

本稿のpdfはこちら
https://slpr.sakura.ne.jp/qp/wp-content/uploads/2021/08/Green_related_functions1.pdf

定義


ヘヴィサイド関数

符号関数

矩形関数

デルタ関数

デルタ関数\(\delta(x)\)は、

を満たす関数です。この定義式を満たす場合、デルタ関数は以下の性質を持つことが分かります。

フーリエ関数

性質、関係式


積分表示

定積分が関係する場合


デルタ関数

ヘヴィサイド関数


sinc関数に関係する式

畳み込み積分


デジタル信号処理と偏微分方程式の関係

問題提起


デジタル信号で良く以下の図のように入力と出力が説明されます。

ここで疑問が生まれました。それは

  • 時間だけの関数であるならば、通過前後の位置はどこに記述されている?
  • 出力が、入力とシステムの畳み込み積分である根拠は?

です。通過位置については、どこにも位置が現れていないのです。また、畳み込みは確かに正しそうですが、どこから畳み込みが現れたのか根拠が分かりません。
これの解決を目指します。

本稿の結論は、散乱問題の考え方と同じで良い、です。つまり、

  • 位置と時間は、偏微分方程式の分散関係によって結び付いているので、時間又は位置について分かればもう片方は自動的に来まる。
  • 初期状態から終状態が生まれる際にグリーン関数を用いて書くことができるので、それが畳み込みの形となり、出力となる。

ということです。

序論


デジタル信号処理に現れる入力・出力を表す関数は何か?


波は偏微分方程式として記述されることが多く、基本的に波は位置と時間の関数として書かれます。
しかし、デジタル信号処理の分野では位置に関する表記を消去して時間のみの関数(時間信号)について解くだけで良し、とされます。
波はそもそも偏微分方程式ですので、何らかの仮定をおいて位置は考えなくて良し、としているはずですが、その仮定とは何なのでしょうか。
調べても『当たり前』とされている部分のようで、数式で示されている資料を見つけることができませんでした。

この疑問を詳しく説明します。
デジタル信号処理では、波と相互作用する何かを”システム”という言葉で表現し、その”システム”を特徴づける”インパルス応答”やそのフーリエ変換である”周波数特性”として扱います。
そして、”入力”と”システム”の相互作用を畳み込み積分した結果を”出力”として表します。
ここで私が疑問に思ったのは、

  • 「インパルス応答を用いて畳み込み、は妥当そうだが、それはなぜokなのか?」
  • 「現実には”システム”を通過する前後の位置という情報があるはずなのに、それはどこに行った?」

という2点です。

畳み込み積分が出てくる数学上の話はグリーン関数が想像されますが、やはり検索しても見当たらないので自分で導出を試みました。
いろいろ悩みましたが、以降の導出は私の導き、納得できた結論です。考え方は散乱問題と同じです。
つまり、畳み込みが出てくるということは非斉次方程式が出てきて、グリーン関数を用いて解が表される方程式があるということです。

導出


関係性の導出


波動方程式

を解くことを考えます。ここで、\(\hat{D}\)は位置\(x\)と時間\(t\)に関する微分演算子です。具体的に例えば
\begin{align}
\hat{D}=\frac{\partial^2}{\partial t^2}-a\frac{\partial^2}{\partial x^2}
\end{align}

みたいな感じです。相互作用を表現する\(s(x,t)\)の持つ性質として
\begin{align}\displaystyle
s(x,t)\Bigr|_{x\gt |a|}=0
\end{align}
を仮定します。

この仮定の下で、初期状態は\(x\lt -|a|\)の領域のみで波形が与えられると考えます。つまり、初期状態\(f_0(x,t)\)は

を満たす状態として与えられます。この条件下で、式(1)の解を

の形で探します。\(g(x,t)\)は未知の、これから求めたい関数です。
式(1)に代入すると\(g(x,t)\)について

を満たす関数として書けます。式(4)の解\(g(x,t)\)は

とグリーン関数を用いて書くことができます。ここで、\(g_0(x,t)\)は
\begin{align}
\Bigl[\hat{D}(x,t)+s(x,t)\Bigr]g_0(x,t)=0
\end{align}
を満たす解であり、\(G(x,t;x’,t’)\)は

を満たす解です。補足しますが、右辺を見ると\(x-x’, t-t’\)の形でしか存在しません。これはつまり、左辺のグリーン関数も\(x-x’, t-t’\)の関数になっていることを意味します。つまり、
\begin{align}
G(x,t;x’,t’)=G(x-x’,t-t’)
\end{align}
という形になっており、グリーン関数は4変数関数ではなく、2変数関数であることが分かります。どちらの表記でも構わないので適宜用いることにします。
もし初期状態が存在しない、つまり\(f_0(x,t)=0\)ならば\(g(x,t)=0\)が想定されるため、

でなければなりません。よって、

と書けます。ここで\(H(x,t;x’,t’)\)は

を満たす関数で、俗にいうインパルス応答を記述します。ここでもGと同様に
\begin{align}
H(x,t;x’,t’)=H(x-x’,t-t’)
\end{align}
と書くことができます。以上から、式(1)の解は

と書けます。ここで解の意味を考えます。右辺第一項は初期状態(入力)であり、右辺第二項は、初期状態が\(s(x,t)\)と相互作用した結果生じる相互作用項(出力)を意味します。

仮に初期状態が

とかけていた場合を考えます。式(10)の右辺第二項を計算すると

とまとめられます。ここで、

と定義しました。以上から、解は

となります。良く知られているように、波数空間(もしくは、初期状態を角周波数\(\omega\)の変数とするならば角周波数空間)で相互作用の結果は、相互作用(インパルス応答)のフーリエ変換 \(H(k,\omega(k))\)と初期状態のフーリエ変換との積となります。