バレル内部でのBB弾の運動方程式です。
目的は、
BB弾は何秒間バレル内部に存在しているのか?
バレルが長いと減速になりうるのか?
を知ることです。詳細は弾道計算本をご覧ください。
弾道計算(BB弾)の理論
弾道計算(BB弾)の結果
弾道計算の結果2, 比較と詳細データ
弾道計算(BB弾)のコード(fortran90)
弾道計算のコード(Excel)
バレル内部でのBB弾の方程式←今ここ
電動ガンの場合です。
空気抵抗は初速0[m/s]から90[m/s]前後にまで加速されるわけですから、空気抵抗の粘性抵抗、慣性抵抗どちらの項も無視することはできないでしょう。
空気の漏れも考えます。
この条件下では、バレル内部の運動方程式は以下のように導くことができます。
内部圧力変化と力
ピストン-BB弾間の圧力変化による力\(F_V(t)\)は、
\(
F_V(t)=S\cdot P(t)
\)
と書けます。ここで\(P(t)\)はピストン-BB弾間の内部圧力です。
\(P(t)\)は、断熱変化を仮定すると、ピストン-BB弾間体積\(V(t)\)を用いて
\(
P(t)V^{7/5}(t)=\text{const}
\)
の関係があります。体積\(V(t)\)は
\(
V(t)=x(t)S_b-x_0(t)S_s
\)
と書けます。ここで、ピストンの位置による時間変化を\(x_0(t)\)、BB弾の位置を\(x(t)\)、バレルの断面積を\(S_b\)、シリンダーの断面積を\(S_s\)としました。
この式は時刻に依存せずに決まるので、時刻\(t=0\)の時に大気圧\(P_0\)で、体積\(V_0\)であれば、任意の時刻での圧力\(P(t)\)は
\(
\displaystyle P(t)=P_0 \left(\frac{V_0}{V(t)}\right)^{7/5}
\)
と書けます。
空気の漏れについて
十分短い時間の間、時刻\(t\)において内部圧力\(P(t)\), 空気の密度\(\rho\)とすると、漏れ出る空気の速度\(v(t)\)はベルヌーイの定理から
\(
\begin{align}
P(t)&=\frac{1}{2}\rho v(t)^2+P_0 \nonumber \\
&\to v(t)=\pm \sqrt{\frac{2}{\rho}(P(t)-P_0)}
\end{align}
\)
が成立するとします。厳密には、ピストンの速度は漏れ出る空気の速度に対して無視できるほど小さい、という仮定の下で成立します。漏れ出る流量\(Q\)は、バレル-BB弾の隙間の断面積\(A\)、実験とのズレを調節する無次元の流量係数\(c’\)を用いて\(Q=c’ A v(t)\)と書けます。
また、断熱過程を圧力-体積の関係を用いたいので、漏れ出る空気はBB弾-ピストン間の体積の増加として扱います。
フルシリンダーの場合の運動方程式
その他、空気抵抗による力を入れると、BB弾の位置\(x(t)\), ピストンの位置\(x_0(t)\), 体積\(V(t)\)の運動方程式は
\(
\begin{align}
m\frac{d^2}{dt^2}x(t)&=\left[P(t)-P_0\right]S_b-\frac{1}{2}C_d \rho \pi R^2 |v(t)|^2\cdot\frac{v(t)}{|v(t)|} \label{bbin1}\\
m_s\frac{d^2}{dt^2}x_0(t)&=-k\left[x_0(t)-x_B-l\right]-[P(t)-P_0]S_s -F_f\label{bbin2} \\
\frac{d}{dt}V(t)&=v(t)S_b-v_0(t)S_s+c'(S_b-\pi R^2)\mathrm{sgn}(P(t)-P_0)\sqrt{\frac{2}{\rho}|P(t)-P_0|} \label{bbin3}
\end{align}
\)
と導くことが出来ます。
ここで、\(P_0\)は大気圧、\(\eta\)は粘性率、\(R\)はBB弾の半径、\(C_d\)は抗力係数、\(\rho\)は空気の密度, \(S_b\)はバレルの断面積、\(S_b\)はシリンダーの断面積、\(k\)はピストンのばね定数、\(l\)はばねの自然長、\(F_f\)はピストン-シリンダーの摩擦、\(v(t),v_0(t)\)はそれぞれBB弾の速度、ピストンの速度を意味します。
空気抵抗に関する詳細は球体の空気抵抗と係数をご覧ください。
ここで1つ言えることは、外部と内部の圧力が一定になる最適なバレル長というものが存在する、ということです。
2019/01/20 追記)
本の頒布日より1年以上たちました。
計算結果は載せないつもりでしたが、載せたくなりましたので少しだけ載せておきます。
まず、実測データと上で立てたモデルの運動方程式の比較をします。
比較対象はインターネット上で公開されていた二つのデータです。
実測データとの比較
1つ目(図の←)はさばなび様で公開されていた記事
https://www.saba-navi.com/2015/10/29/laboratory_work_barrel_cut/で実測されていたデータで、バレル長の長さと初速の関係です。ただし、既にリンク切れのようです。
ピストンの重さの記述が無かったので、典型的とされている重さ25gを仮定して計算しています。
2つ目(図の→)は石岡様のホームページ
○電動ガンバレル、シリンダの組み合わせによる初速実験
の結果との比較です。
どちらの計算結果もまぁまぁ合っていることから、私が仮定したモデルは見当はずれなものではないということが分かるかと思います。
バレル内部の様子
さて、上のモデルが正しいとした時、運動方程式を解いてバレルの動きや内圧を考えてみましょう。
解いてみますと、こういった図が得られます。
図は、東京マルイM16を想定した時のBB弾の位置、速度、ピストンの位置、内圧の時間変化です。
計算のパラメータは、
BB弾の重さ0.20g
ピストンの重さ24g
ばね定数431N/m
ばねの自然長150mm
押し切られた時のばねの長さ120mm
BB弾の半径5.95mm
バレルの直径6.05mm
とした時の結果です。
この場合、生み出せる最高初速は96m/s(バレル長63cmの時)。
例えばバレル長が50cmの時、ピストンが動いてからBB弾が射出されるまでにかかる時間は0.013秒ということが分かります。
すなわち、上のピストンの重さやBB弾の重さ、ばねの強さ、シリンダー容量の場合は最適なバレル長は63cmであるということです。
また、内圧の上昇によるピストンのブレーキなども計算できていることが分かるかと思います。
また、漏れ出る空気の量は\(3000[\mathrm{mm^3}]\)だということが見積もられました。この量はM16の場合は本来のシリンダー容量の15%程度です。
典型的なバレル長である50cmの場合、BB弾は射出されるまでに約0.013秒かかります。内圧の上昇によるブレーキがかからず、同じ過程でばねが引かれると仮定すると、ピストンは約0.010秒で戻ると考えられます。
理論上の効率的な射出サイクルの限界は
(1発)÷(0.013秒+0.010秒)≒ 43発/秒
という事です。現在販売されている東京マルイのハイサイクルは25発/秒なので、理論上あと1.7倍早くすることが可能です。
BB弾の重さを0.25gにした結果や、ばねの強さを変えた時の結果は
弾道計算本として計算結果をまとめた本に載せているので、そちらをご参照ください。本の詳細については弾道計算本の自家通販をご覧ください。
また時間が経ったらここに載せる…かもしれません。
補遺
補遺1
理想気体として扱える条件は、
低い気圧(分子の数が少なく、衝突等が無視できる)かつ高い温度(分子間力が分子の運動エネルギーに比べて無視できる)
です。
どうやら実在気体では10気圧以下、室温以上でこの条件は良く満たされ、理想気体とのずれは1%以内のようです[1]。
[1]を引用すると、
一般に,沸点の低い酸素・窒素・水素・ヘリウム等は,室温またはそれ以上の温度で10atm以下の圧力の場合,理想気体の値の1%以内で理想気体に近い性質を示す。
とあります。ピストンで空気が圧縮されたとき、BB弾とピストン間の圧力が10気圧以上にならなければ良い近似だと言えるでしょう。
参考文献
[1] 実在気体 -第2節 気体の状態方程式
[2]PERFECT HIT -TOKYO MARUI
『集弾性アップへの道』 BB弾とバレル内部に隙間があることが写真で確認できます。