導出した答えが妥当なものか確かめる方法

自分で導出した式があったとして、それは正しいのでしょうか?
どうやって合っているのだ、と自信を持てばよいのでしょう。
物理の理論研究を行う上で重要な能力となります。

教育の範疇では、教科書なり参考書なりを見て答えを見つければ良いのですが、研究では、貴方が導出した式は世界中探しても何処にもない式なのです。答えの無い解が合っていることを確認する。これほど研究で必要になる能力は無いと思います。この問いに対する答えは、

その式は当たり前を記述しているのか

を確かめることです。
 物理学を行う上では、実験や数値実験などから、ある程度どういう振る舞いをする答えなのか分かっていることがほとんどです。理論を組み立てて、導いた結果から初めて分かることはあまりないのです。
 しかし論文や発表、教科書等においては発表する際には、分かっていない現象を定式化して実験orシミュレーションと一致しました!凄いでしょ!という順序で結果を見せるので誤解するかもしれません。この構成の方が見栄えがしますし、発表が物語みたいに立てられるので人を引き込めるのです。
 実際の理論研究では結果が分かっていて、どうやって基本方程式からその結果を導出するか?その間を埋める作業が研究となっていることが多いのです。それっぽいのが導出できたら、式が妥当なものなのかを精査していくわけです。この過程で、本来なるべき式の振る舞いからずれていて、計算過程に間違いが無いのだとしたら、それが新しい発見に繋がったりするわけです。また、答えがどういう状況で現れるのか分かっているので、適切な近似が想いつくのです(本当の天才は違うでしょうが…)。

なので、物理の理論研究では、分からない答えをどうやって評価するのかが重要になるわけです。この指標を本稿で取り上げたいと思います。
数学の厳密性はさほど考えないので、数学者からは怒られてしまうかもしれませんけれど…

  1. 極端な場合を考える
  2. 特別な点を考える
  3. 特異点を評価する
  4. 次元を確認する
  5. 漸近形を考える
  6. 当たり前の振る舞いをする関数系を持っているか確かめる
  7. 保存則を満たしているか
  8. 複数の関数の和で書けている場合、それぞれの項に意味を見出せるか
  9. 数値計算を行う
  10. 近くの人に、自分の導出に沿って解いてもらう

極端な場合を考える


もしも答えAを導いた場合、極端な場合を考えましょう。
極端な場合、物理的な描像が思い浮かびやすく答えが想像できることが多いです。
そしてその振る舞いが、Aを導いた際に使用した仮定に反しない範囲で説明できるか、ということを確認しましょう。
極端な場合とは、あるパラメータを0または無限大にした時などです。

古典的な単振り子の減衰振動なんかよい例かもしれません。
減衰振動を頑張って解いた結果、振動の抑制を表す正のパラメータ\(\gamma\)(例えば粘性率のようなパラメータ)を使って
\begin{equation}
f(t)=Ce^{-\gamma t}\cos(\omega t),~~\omega =(\text{const})
\end{equation}
と完全に書ける、と導いたとしましょう(上式は間違っていますが、減衰振動の解析解を知らないとして間違っていることを確認する作業を行います)。

まずは初期条件です。時刻\(t=0\)である位置\(f(t=0)\)から手を放す時を考えると、それが表現できている出来るでしょうか?
これは、解に対して\(f(t=0)\)が自由度を含んで\((-\infty, \infty)\)の範囲にいることができるのかという問いです(問題によっては\(\infty\)の位置にいることなど出来ないかもしれません。その場合は適切な範囲で考えなければなりません)。
\(t=0\)を代入すれば、
\begin{equation}
f(t=0)=C
\end{equation}
となって表現できるわけです。まずは問題ないですね。初速度は
\begin{equation}
f'(t=0)=0
\end{equation}
となります。ということは、この解は初速度ゼロを仮定した場合の解ということになります。初速度がある場合、この解は正しくないということが分かります。

反対に、解が
\begin{equation}
f(t)=Ce^{-\gamma t}\sin(\omega t)
\end{equation}
と書かれていた場合は\(t=0\)で\(f(t=0)=0\)になるわけですから、原点にいなければなりません。その代わり、速度に任意のパラメータを含むようになるわけです。

ここで、解を初速度ゼロで放すという過程を入れて導いたのであればあっている解ですが、そうでなければこの時点で間違いであることが分かります。

続いて\(\gamma\)を考えます。\(\gamma = 0\)であれば減衰などない訳ですから、単なる単振動の振る舞いをすることが容易に判明します。
これを導いた式に代入すると、
\begin{equation}
\lim_{\gamma\to 0}f(t)= C \cos(\omega t)
\end{equation}
となるので、想定に見合った振る舞いをしていることが分かります。

反対に\(\gamma \to \infty\)の時、すなわち非常に粘性の高い中にいる場合を考えますとこの場合も容易に想像が出来て、振動はしないで無限の時間を掛けてゆっくりと平衡位置に向かうだろう、ということが想像できるでしょう。
この振る舞いを式が記述しているかを確かめます。
\(\gamma \to \infty\)を代入しますと、
\begin{eqnarray}
\lim_{\gamma \to \infty} f(t)&=& Ce^{-\gamma t}\cos(\omega t)
&\to & 0
\end{eqnarray}
となることが分かります。粘性の高い物質の中にいるのですから振動はせず、\(f(t)=0\)に行く、という事を言っていますが、そこに至るまでに位置\(y=C\)から無限小の時間で\(y=0\)に向かうと言っているのです。速度がめちゃくちゃ早くなることはおかしい振る舞いです。これは想定には合わず、どこかで間違いがあることに気が付けます。

別の例として光がスリットを通過する問題を挙げましょう。
\((x,y)\)の2次元平面を考えて、\(x\to -\infty\)から平面波がやってくる場合を考えます。ここで、\(x=0\)に幅\(a\)のスリットを平面波が通る問題があるとします。この時、\(a\)の関数として\(x\gt 0\)の領域が書きあらわされて導出できたとしましょう。
すると、もし\(a\to \infty\)であれば、スリットは無いと同じなので、関数の格好は平面波として書けていなければなりません。また、トンネル効果やエバネッセント波による染み出しを定式化していない基本方程式から出発したのであれば、\(a\to 0\)の振る舞いは波が全く存在しない、すなわち0になっていなければなりません。
トンネルを記述していたならば、全領域を積分した結果が確率密度に等しいのか?を調べます。エバネッセント波であるならば\(x\to \infty\)の無限遠方でゼロになる振る舞いをするか?を調べるべきです。

更に別の例であれば、気体や物性物理学で用いられる考えでしょう。
例えば有限温度の問題を考えているのであれば、絶対零度の場合には良く知られた解に落ち着くはずです。もし明らかにゼロにできないような近似をしているのならば、\(T\to 0\)もしくは\(k_B T\to 0\)で導出した答えを級数展開しましょう。\(exp(aT)\to 1+aT+O(T^2)\)のように、です。もしも出来ないのであればなにかしら間違えた式変形をしている可能性があります。もちろん、特別な有限温度を中心に展開するような近似をしているのであれば、絶対零度を考えるのは意味がありません。別のパラメータがゼロにすることが出来るのか考えましょう。

特別な点を考える


特別なパラメータが何かしら定義されている時、例えばそのパラメータがエネルギー保存などから導かれているのであれば、それを代入することで妥当性を評価できます。また、初期条件を与えた時、無理のない値となるかで判断することが出来ます。
例えば光学の世界では焦点が分かっている時、その近傍では何か特徴的な振る舞いが起こるはずです。光の強度が発散するとか、光の強度が極大値を持つのでgradがゼロになるとか、そんな地点です。そういった特別な点で確かめるのです。

また、電磁気学や量子力学では点電荷や、デルタ関数型のポテンシャル等の超関数を考えたりします。
これは、もし積分の格好で答えの関数が表現されていたとき、デルタ関数であれば積分が(ほとんどの場合簡単に)計算できてしまうので便利なのです。現実にはあり得なくてもデルタ関数はダメ!という仮定を入れずに定式化してきたのであれば、代入してみるべきです。デルタ関数が扱えない場合は、極微小な幅を持った離散的な点電荷、デルタ関数でもいいでしょう。積分はその(中心の値)×(幅)として大雑把に計算を進めて行けばいいのです。この時は積分の値が適当な値に規格化しておいて考える必要があります。

振り子が良い例かもしれませんね。角度が大きい振り子を真面目に解いて、結果を得たとします。
最下点から初速度を持たせて計算するとき、ポテンシャルエネルギーと同じ運動エネルギーで射出するならば、頂上で止まるはずです。
この時の初速度はエネルギー保存則から
(初期運動エネルギー)=(頂上にある時のポテンシャルエネルギー)
で導出できるはずで、そうなっているのかを確かめるのです。
結果は頂上で永久に止まる解になるはずで、それが定式化されているかを確かめるのです。こういった特別な積分は完全楕円積分など、名前がついていて有名な積分として解ける場合が非常に多いです。

特異点を評価する


例えば、運動方程式を解いた結果、答えが
\begin{eqnarray}
f(t)&=& \frac{g(t)}{t-a}
\end{eqnarray}
みたいな形だったとしましょう。
この場合、\(g(t)\)が分母とキャンセルしない限り、時刻\(t=a\)で\(f(t)\to \infty\)になります。考えている近似の範囲内で起こる現象で\(f(t)=\infty\), もしくは限りなく大きくなる振る舞いがあり得るのか?を調べます。そんなことが起こらないのであれば導出が間違えている、もしくは\(t=a\)近傍の時刻では用いた近似の適応範囲を超えており、使えないことを示しています。

また、複数の関数の積や和で書けている時、とこかの関数がたまたま1やゼロになるような点を見つけてその値を代入してみる、ということも有用です。そういった点は系を特徴づける値になっていることが多く、特徴的な時刻や位置、状況になっていることが多いです。

次元を確認する


これもかなり有効な手段であり、計算ミスが有ったかどうかを判別する手助けになります。
例えば指数関数が出てきた場合、指数の肩は必ず無次元でなければなりません。そのような形式になっているかを確認します。

無次元化して解いている場合は少し判別が難しくなりますが、同じ量の比なはずなのに、分子はxの2次式、分母は1次式みたいな状況になっていると何故2次係数が無くなっている/現れているのかを確認すると良いでしょう。

漸近形を考える


ある微分方程式を解いて求めた答えがあったとします。
その時、微分方程式の時点で漸近形を考えるという近似を入れると簡単に解けてしまう場合があります。
例えば原点近傍で展開してあるパラメータのオーダーで評価するとか、漸近ではある項が落ちてしまうので簡単に解ける、とかです。

当たり前の振る舞いをする関数系を持っているか


例えば振動する現象を表したいのに、導出した結果が\(\exp(i\omega t), \sin(\omega t), \cos(\omega t)\)等を持っていないのであれば、間違えている可能性が高いです。
しかし、指数関数や三角関数は\(\omega\)が虚数をとり得るのであれば、振る舞いが変わるため、十分な精査が必要です。

保存則を満たしているか


確認するために、系の保存則が満たされているのか調べることも良い方法です。
中心力しか存在しない系を計算しているならば角運動量を、外界とのエネルギーのやり取りが無いのであればエネルギー保存則を満たしているのかを調べる等です。もし、2つの粒子を考えているならば、2つの系が持っているエネルギーの和が変わらないや、与えたエネルギー分上昇しているのかなどです。

数値的に確かめることも可能なので、ある程度の指標として用いることが出来ます。
この手助けとしては系の対称性と保存量の関係であるネーターの定理が大きな手助けとなります。

複数の関数の和で書けている時、それぞれの項の持つ意味に妥当性を見出せるか


とくに物理学の場合に役立ちます。もっとも幅広く使われる例は線形結合でしょう。
解の線形結合として、導出した解が書けているのであれば、それぞれの項だけが存在する場合ももちろん解です。
量子力学で変分原理を用いているのであれば、各々の項は固有状態となっているはずです。もしも固有状態を利用して展開しているにもかかわらず、固有状態ではない項が出てくるのであればそれは間違いです。

また、電気回路の過渡現象でも現れるでしょう。パルスの立ち上がりと共にゆっくり消えてしまう項と振動する項が現れるなど、それぞれの項の持つ意味があっても不思議ではないか考えることが出来ます。

数値計算を行う


式とにらめっこしてもどうしても近似が見付かりそうもなくて、数値計算が得意ならば、ぜひ数値計算を行うと良いでしょう。
典型的なパラメータを代入して計算するのです。少なくとも何かの傾向は見えるはずです。
それをみて妥当なのか判断するのも良いでしょう。

近くの人に、自分の導出に沿って解いてもらう


近くにある程度同じことをやっている人がいるならば非常に幸運です。もしそのが信頼できる人で、関係が悪くなければ、焼肉や寿司を奢るから導出仮定を辿ってみて!と言ってみましょう。
アイデアをあげたくなければ、ある程度式をぼかすか不安な一部分だけでも良いでしょう。
貴方の労力がゼロで、ある程度指摘がもらえることが多いです。確認する方法がもらえるかもしれません。
勿論、その人の言うことを全て信用してはいけません。

「導出した」と「式を追う」では、天と地ほどの理解度の差があります。数か月かけて導いた結果を当たり前と言われるかもしれませんが、こらえましょう。
心の中で、(でもあなたはそんな当たり前なことに今まで気が付けなかったんですね)とでもほくそ笑むだけにしましょう。逆もしかりですから。

熱力学

  1. 準静的な過程
  2. 平衡状態と最適なエネルギー
    1. 熱のやりとり(\(d’Q=TdS\))と体積変化(\(dV\))を見たい時
    2. 熱のやりとり(\(d’Q=TdS\))と圧力変化(\(dp\))を見たい時
    3. 温度変化(\(dT\))と体積変化(\(dV\))を見たい時
    4. 温度変化(\(dT\))と圧力変化(\(dp\))を見たい時
  3. 熱力学変数の各種関係式
  4. 熱容量
    1. 定積熱容量
    2. 定圧熱容量
    3. 定積熱容量と定圧熱容量の関係
    4. \(dp\)の消去
    5. \(dV\)の消去
  5. エントロピーについて
  6. さいごに
  7. 注記
  8. 参考文献

準静的な過程


気体を状態変化させることを考えます。
状態変化とは、圧力や体積、温度、粒子数などが変化することを指します。

気体の持つエネルギーの微小変化\(dE\)は、外部からの気体へ与えられたエネルギー\(d’Q, d’W, d’G\)を用いて
\begin{align}
dE = d’Q+d’W+d’G
\end{align}
と書くことが出来ます。この式はエネルギー保存を表しており、左辺が気体の持つエネルギーの変化分、右辺が気体に加えられたエネルギーを意味しています。
ここで、
\(d’Q\)は気体が受け取った熱量(熱的なエネルギーの授受)、
\(d’W\)は気体が受け取った仕事(力学的なエネルギーの授受)、
\(d’G\)は気体が受け取った、粒子数を変化させるのに必要なエネルギー(粒子数変化に伴うエネルギーの授受)
を意味します。ここで、これらの量が表す主語は気体です。気体が熱を受け取ったならば\(d’Q\gt 0\)であり、気体が仕事を受け取ったならば\(d’W\gt 0\)です。
また、プライムの記号は気体へのエネルギーの与え方(経路)を指定していることを意味し、微小量だけれども経路に依存する量を示すための記号です。
もう一度言いますが、この式は単なるエネルギー保存則を表しているだけです。

\(d’G\)とはどんなエネルギーなのか考えてみましょう。
例えば箱の中に入っている気体の粒子が、原子間力や分子間力などにより斥力相互作用をもつ単一の粒子で構成されていると考えましょう(※1)。
 この場合、新しい粒子を入れるためにはエネルギーが必要です。この過程が断熱的で体積変化が無いと想定すると、熱エネルギーでも力学的なエネルギーでもない別のエネルギーによって粒子が押し込められたということですよね。このエネルギーを化学ポテンシャルと呼びます。
 なので、粒子間相互作用が全くなければ、このエネルギーは生じません。

さて、状態変化を物理的、数学的に取り扱い易くするため、状態変化に制限を加えます。
それは準静的な変化と呼ばれる過程です。準静的な変化とは簡単に言えば可逆過程のみを考えるということです。
例えば気体を膨張する操作において、ピストンの摩擦力などによって気体以外の場所にエネルギーが渡ることが無い、ということです。
別の言い方をすれば、状態変化の途中では常に平衡状態が保たれているということを意味します。しかし常に平衡状態を保ちながら変化する、という言葉は矛盾しています。なぜなら、平衡状態とは変化が無い状態の事であり、それが変化するとはおかしい事です。平衡状態を保ちながら変化するということは、無限大の時間を掛けて無限小の変化を引き起こすということです。本当に無限ではなくて、気体にとって無限大の時間をかけて無限小の変化を起こすという意味です。

準静的な過程を考えた時、与えた熱などのエネルギーは気体の持つ適当な状態量の変化として現れます。先人方の研究によって、微小な熱量、微小な力学的エネルギー、微小な粒子数変化に伴うエネルギーは、
\begin{align}
d’Q&= TdS \\
d’W&= -pdV \\
d’G&= \sum_i \mu_i dN_i
\end{align}
と書くことが出来ることが分かりました。
ここで、
\(T\mathrm{[K]}\)は温度、\(S\mathrm{[J/K]}\)はエントロピー、\(P\mathrm{[N/m^2]}\)は圧力、\(V\mathrm{[m^3]}\)は体積、\(\mu\mathrm{[J/個数]}\)は化学ポテンシャル、\(N\mathrm{[個]}\)は粒子数を表します。
また、添え字\(i\)は気体を構成する原子・分子種の違いを表します。気体が酸素\(O_2\), 窒素\(N_2\)の2種から出来ているのであれば、\(i=1,2\)となります。

もう少し先でエントロピーの説明をしますが、本稿ではエントロピーの定義は単に、温度に共役な量と定義してそれ以上は余り述べません。

ここで、気体のエネルギーとは何をするためのエネルギーなのか触れておきましょう。
気体の状態量があれば、それに対応したエネルギーがあります。気体を特徴づける状態量から次元解析によりエネルギーの次元を作ろうと思えば、
(温度\(T\mathrm{[K]}\))×(エントロピー\(S\mathrm{[J/K]}\))はエネルギーの次元、
(圧力\(P\mathrm{[N/m^2]}\))×(体積\(V\mathrm{[m^3]}\))はエネルギーの次元、
(化学ポテンシャル\(\mu\mathrm{[J/個数]}\))×(粒子数\(\mathrm{[J]}\))はエネルギーの次元を持つことが分かります。
それぞれのエネルギーに対する微小変化に対しては、線形結合で書くことが出来ます。
すなわち、気体のなんらかのエネルギーの微小変化\(dE\mathrm{[J]}\)は、
\begin{align}
dE=c_1 d(TS) + c_2 d(PV) + c_3 d(\mu N)
\end{align}
と書かれることが予想できるでしょう。ここで\(c_1, c_2, c_3\)は各状態量の定義次第で決まる定数です。

上式が意味することは、3個の自由度を決めることで気体のエネルギーを定義できる、ということを意味しています。独立な変数として取れると言っても良いでしょう。
3個の自由度とは、それぞれのエネルギーに対応する自由度で、

\(T, S\)の中から1つ、
\(P, V\)の中から1つ、
\(\mu, N\)の中から1つ、

という意味です。つまり気体のエネルギーとして定義可能な組み合わせは8種類存在するということです。
8個のエネルギーを表現する形式のうち、どれが正しいとかそういうことは無くて、どれが便利な表現か?という基準で選びます。
問題によって、最適なエネルギーの表現があるということです。
もし上で表現されていないエネルギーの種類、例えば電気的なエネルギーが加わればそれに応じで種類も増えます。
ちなみに\(T, S\)や\(P, V\)や\(\mu, N\)の関係は、片方の変数はもう片方の共役な変数と呼ばれます。エネルギーの次元を持つ量を作る二つの変数の組み合わせを共役な変数と呼びます(※2)。例えば、\(T\)は\(S\)の共役な変数である、と言います。

平衡状態と最適なエネルギー


さて、3個の自由度を決めることで気体の持つ何らかのエネルギーを定義できると述べました。
つまり気体の自由度はエネルギーの表現が可能な、共役な変数の組の数できまり、上記の気体を表現したい場合ならば気体が持つ自由度が3であることを言っています。

続いて気体の平衡状態とは何を指す言葉なのか考えましょう。
平衡状態とは気体に変化を与えた後、十分長い時間放置した時に気体の状態量に変化が現れなくなった時のことを指します。平衡状態は3個の自由度を適切に決めた時に初めて定義できます。最適なエネルギーは問題設定から自ずと分かるでしょう。少し計算をしてから平衡状態を表すのに最適なエネルギーを述べていきます。

方針は、気体のエネルギーの代表例である内部エネルギー\(U\)について述べます。その後、\(U\)を基準にして、その他のエネルギー表記をルジャンドル変換を利用して導出していきます。

  • 熱のやりとり(\(d’Q=TdS\))と体積変化(\(dV\))を見たい時

    まず、最も基本的なのが気体の内部エネルギー\(U\)と呼ばれている量です。
    \(U\)は独立変数として\(S, V\)を選んだ場合の気体のエネルギーを指します。すなわち、
    \begin{align}
    dU=TdS -p dV
    \end{align}
    と定義されます。このように書いた時、\(U, T, p\)は\(S, V\)の関数として\(U(S, V), T(S, V), p(S, V)\)と書くことを示すことを注意してください。
    内部エネルギーの表記が有用なのは、
    熱のやりとりと気体の体積変化を見たい時
    です。熱のやり取りは\(d’Q=TdS\)、体積変化は\(dV\)で表されており、その変化に注目したい時便利な表記です。

  • 熱のやりとり(\(d’Q=TdS\))と圧力変化(\(dp\))を見たい時

    独立変数として\(S, p\)を選んだ場合の気体のエネルギーを考察しましょう。
    今、内部エネルギー\(U\)の微小変化は
    \begin{align}
    dU=TdS -p dV
    \end{align}
    です。目的は右辺を\(dS,dp\)で表すことです。共役な変数を取り換えるために、ルジャンドル変換を利用します。その方法は共役な変数の組み合わせを足したり引いたりすることです。便宜的にあるエネルギー\(H\)を考えて、それを
    \begin{align}
    H=U +pV
    \end{align}
    と定義します。このように新たな変数を考えるのがルジャンドル変換です。\(H\)の微小量を考えると
    \begin{align}
    dH&=d(U +pV) \\
    &=dU + pdV+Vdp
    \end{align}
    です。\(dU=TdS -p dV\)を代入すれば、
    \begin{align}
    dH=TdS+Vdp \\
    \end{align}
    を得ます。右辺には熱のやり取り(\(d’Q=TdS\))と圧力変化(\(dp\))で表されており、その変化に注目したい時便利な表記です。\(H\)はエンタルピーと呼ばれています。

  • 温度変化(\(dT\))と体積変化(\(dV\))を見たい時

    独立変数として\(T,V\)を選んだ場合の気体のエネルギーを考察しましょう。
    今、内部エネルギー\(U\)の微小変化は
    \begin{align}
    dU=TdS -p dV
    \end{align}
    です。目的は右辺を\(dT,dV\)で表すことです。ルジャンドル変換を利用して、
    便宜的にあるエネルギー\(F\)を考えて、それを
    \begin{align}
    F=U -TS
    \end{align}
    と定義します。\(F\)の微小量を考えると
    \begin{align}
    dF&=d(U -TS) \\
    &=dU – SdT-TdS
    \end{align}
    です。\(dU=TdS -p dV\)を代入すれば、
    \begin{align}
    dF=-SdT-pdV \\
    \end{align}
    を得ます。右辺には温度変化(\(dT\))と体積変化(\(dV\))で表されており、その変化に注目したい時便利な表記です。\(F\)はヘルムホルツの自由エネルギーと呼ばれています。

  • 温度変化(\(dT\))と圧力変化(\(dp\))を見たい時

    独立変数として\(T,p\)を選んだ場合の気体のエネルギーを考察しましょう。
    今、内部エネルギー\(U\)の微小変化は
    \begin{align}
    dU=TdS -p dV
    \end{align}
    です。目的は右辺を\(dT,dp\)で表すことです。ルジャンドル変換を利用して、
    便宜的にあるエネルギー\(G\)を考えて、それを
    \begin{align}
    G=U-TS+pV
    \end{align}
    と定義します。\(G\)の微小量を考えると
    \begin{align}
    dG&=d(U -TS+pV) \\
    &=dU – SdT-TdS +pdV+Vdp
    \end{align}
    です。\(dU=TdS -p dV\)を代入すれば、
    \begin{align}
    dG=-SdT+Vdp \\
    \end{align}
    を得ます。右辺には温度変化(\(dT\))と圧力変化(\(dV\))で表されており、その変化に注目したい時便利な表記です。\(G\)はギブスの自由エネルギーと呼ばれています。

以上の話でいろいろなエネルギー名が出てきましたが、それぞれの名称を覚える必要はありません。重要なのは考え方であり、迷ったら確かめれば良いのです。どうせ\(U\)に\(pV, TS\)を足したり引いたりすれば良いのですから。

一般的に書けば、熱力学における便利なエネルギー\(E\)は、
\begin{align}
E=U+c_1 TS + c_2 pV
\end{align}
の形で書けるわけです。微小量を考えれば、
\begin{align}
dE&=dU + c_1 TdS + c_1 SdT + c_2 pdV + c_2 Vdp \\
&=TdS-pdV+ c_1 TdS + c_1 SdT + c_2 pdV + c_2 Vdp \\
&=c_1 SdT + (c_1 +1)TdS+ (c_2-1)pdV + c_2 Vdp
\end{align}
と書けるわけです。状況に応じて、2つの微小量を消すようにそれぞれの係数\(c_1, c_2\)を選べばよい訳です。
そうすれば最適なエネルギー表記を見つけることが出来ます。

熱力学変数の各種関係式


状態数の間には関係式が成立します。
内部エネルギー\(U\)を用いると、
\begin{align}
dU=TdS -p dV
\end{align}
と書けます。\(U, T, p\)は\(S, V\)の関数として\(U(S, V), T(S, V), p(S, V)\)で書けると述べました。
今、\(U(S, V)\)だけに注目します。\(U(S, V)\)を単なる二変数関数として見れば、
\begin{align}
dU=\left(\frac{\partial U}{\partial S}\right)_V dS+ \left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_S dV
\end{align}
と書くことが出来ます。
ここで、\(\left(\frac{\partial U}{\partial S}\right)_V \)は、\(V\)を固定して\(U\)をSで偏微分する、という意味です。
わざわざ偏微分に()と添え字を付けている理由は、取り得る変数の値が複数あるからです。意味は、
\(\left(\frac{\partial U}{\partial S}\right)_V \)は、\(V\)を固定して\(U\)をSで偏微分する、という意味です。
例えば\(\frac{\partial U}{\partial S} \)とだけ書いた時、もう片方の変数が何なのか指定が無いので何でもよい、ということになってしまいますが、\(U=U(S,V)\)と\(U=U(S,p)\)で偏微分の値が変わります。その誤解を招かないために括弧と添え字で表現しています。

話を戻すと、今\(S, V\)を独立変数として書くとき、
\begin{align}
dU&=TdS -p dV \\
dU&=\left(\frac{\partial U}{\partial S}\right)_V dS+ \left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_S dV
\end{align}
と二通りの表現方法が今あるわけです。となると、係数同士を比較すると、
\begin{align}
\left(\frac{\partial U}{\partial S}\right)_V=T,~ \left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_S=-p \\
\end{align}
という関係式が成立していることが分かります。

また、二変数関数\(f(x,y)\)の二階偏微分には
\begin{align}
\frac{\partial}{\partial y}\frac{\partial f}{\partial x} = \frac{\partial}{\partial x}\frac{\partial f}{\partial y}
\end{align}
という関係式があります。従って、
\begin{align}
\left(\frac{\partial }{\partial V}\left(\frac{\partial U}{\partial S}\right)_V\right)_S=
\left(\frac{\partial }{\partial S}\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_S\right)_V
\end{align}
が成立しているので、全微分と熱力学第一法則の比較から得た関係式を代入して
\begin{align}
\left(\frac{\partial T}{\partial V}\right)_S=-\left(\frac{\partial p}{\partial S} \right)_V
\end{align}
が成立していることが分かります。このように二階偏微分を利用して比較して得た関係式はマクスウェルの関係式と呼ばれています。

マクスウェルの関係式を見て分かる通り、これはエネルギーを含まないので純粋な状態量同士の関係です。
同様の関係式は他のエネルギーを考えた結果でも分かることで、\(S, T\)と\(p, V\)の組み合わせから合計4つの便利なエネルギー表式(内部エネルギー、エンタルピー、ヘルムホルツの自由エネルギー、ギブスの自由エネルギー)から4つの関係式を導くことが出来ます。

熱容量


気体に熱量\(Q\)を加えた時、気体の温度\(T\)が何度上がるか考えてみましょう。
見るべき変化量は、気体のエネルギー\(TdS\)であり、その温度変化を考える事です。知りたい量を数式で表せば、
\begin{align}
\frac{d’Q}{dT}=\frac{TdS}{dT}
\end{align}
という値です。この量をエネルギーの関数として表すことが目標です。
まずはこの問題を解くにあたり\(S, T\)と\(p, V\)のどの組み合わせが良いか選びます。

今、\(d’Q\)を陽に表したいので、最適なエネルギーを選ぶ基準として\(d’Q=TdS\)が含まれるエネルギーの形式を選びます。すなわち、\(S\)を変数の1つとして選びます。残りは\(p, V\)の内から選びます。この自由度があることから、\(\frac{d’Q}{dT}\)は一意には決まりません。どちらかの変数を選んだ時の熱容量が定義できるだけです(※3)。

定積熱容量


まずは体積が変わらない時の熱容量、すなわち定積熱容量\(C_V\)を計算しましょう。数式で求めたい量を書けば、
\begin{align}
C_V=\left(\frac{TdS}{dT}\right)_V
\end{align}
という量です。右辺を見ると、

  • \(S\)の\(T\)による変化量を考えたい
  • \(V\)は変化しない

という事に注目したいので、\(S=S(T,V)\)と書けていれば都合が良さそう、ということが分かります。
すなわち、\(S(T,V)\)について
\begin{align}
dS(T,V)=\left(\frac{\partial S(T,V)}{\partial T}\right)_V dT + \left(\frac{\partial S(T,V)}{\partial V}\right)_T dV
\end{align}
の関係式を用いることが出来ます。この式の意味は、単なる全微分という意味だけではなく、変数\(S\)を\(T,V\)に変換する式とみることが出来ます。

左辺の\(dS(T,V)\)を気体の持つエネルギーの表現に代入したいと考えましょう。すなわち\(S, p\)の変数を持つ内部エネルギーが良いです(※4)。
\begin{align}
dU(S,V)=T(S,V)dS -p(S,V)dV
\end{align}
より、\(dS\)に代入することで\(S,V\)から\(T,V\)に変数変換して
\begin{align}
dU(S(T,V),V)&=T(S(T,V),V)\left[\left(\frac{\partial S(T,V)}{\partial T}\right)_V dT + \left(\frac{\partial S(T,V)}{\partial V}\right)_T dV \right] -p(S(T,V),V)dV \\
&=T(S(T,V),V)\left(\frac{\partial S(T,V)}{\partial T}\right)_V dT
+ \left[\left(\frac{\partial S(T,V)}{\partial V}\right)_T -p(S(T,V),V) \right]dV \\
&=T\left(\frac{\partial S(T,V)}{\partial T}\right)_V dT
+ \left[\left(\frac{\partial S(T,V)}{\partial V}\right)_T -p(T,V) \right]dV \\
&=C_V dT
+ \left[\left(\frac{\partial S(T,V)}{\partial V}\right)_T -p(T,V) \right]dV
\end{align}

と変形できます。内部エネルギーを全微分を利用して\(T, V\)で表現すれば、
\begin{align}
dU(T,V)=\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial T}\right)_V dT + \left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial V}\right)_T dV
\end{align}
なので、\(C_V\)は
\begin{align}
C_V=\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial T}\right)_V
\end{align}
と導けます。すなわち定積熱容量は、体積が変わらない時の内部エネルギーの温度変化に等しい、ということです。ここまで分かりましたが内部エネルギーの明確な格好が全く分かっていないのでこれ以上の計算は出来ないままです。

定圧熱容量


続いて圧力が変わらない時の熱容量、すなわち定圧熱容量\(C_p\)を計算しましょう。数式で求めたい量を書けば、
\begin{align}
C_p=\left(\frac{TdS}{dT}\right)_p
\end{align}
という量です。同様に考えていくと、

  • \(S\)の\(T\)による変化量を考えたい
  • \(p\)は変化しない

という事に注目したいので、\(S=S(T,p)\)と書けていれば都合が良さそう、ということが分かります。
すなわち、\(S(T,p)\)について
\begin{align}
dS(T,p)=\left(\frac{\partial S(T,p)}{\partial T}\right)_p dT + \left(\frac{\partial S(T,p)}{\partial p}\right)_T dp
\end{align}
の関係式を用いることが出来ます。左辺の\(dS(T,p)\)を気体の持つエネルギーの表現に代入したいと考えましょう。定積熱容量の時と同じように、\(dS\)を消去するという方針で行きます。\(S,p\)を変数に取る最適な気体のエネルギーはエンタルピー\(H\)ですので、
\begin{align}
dH(S,p)=T(S,p)dS +V(S,p)dp
\end{align}
と書けます。\(dS\)に代入することで\(S,p\)から\(T,p\)に変数変換して
\begin{align}
dU(S(T,p),p)&=T(S(T,p),p)\left[\left(\frac{\partial S(T,p)}{\partial T}\right)_p dT + \left(\frac{\partial S(T,p)}{\partial p}\right)_T dp \right] -p(S(T,p),p)dp \\
&=T(S(T,p),p)\left(\frac{\partial S(T,p)}{\partial T}\right)_p dT
+ \left[\left(\frac{\partial S(T,p)}{\partial p}\right)_T -p(S(T,p),p) \right]dp \\
&=T\left(\frac{\partial S(T,p)}{\partial T}\right)_p dT
+ \left[\left(\frac{\partial S(T,p)}{\partial p}\right)_T -p(T,p) \right]dp \\
&=C_p dT
+ \left[\left(\frac{\partial S(T,p)}{\partial V}\right)_T -p \right]dp
\end{align}

と変形できます。エンタルピーを全微分を利用して\(T, p\)で表現すれば、
\begin{align}
dU(T,p)=\left(\frac{\partial H(T,p)}{\partial T}\right)_p dT + \left(\frac{\partial H(T,p)}{\partial p}\right)_T dV
\end{align}
なので、\(C_p\)は
\begin{align}
C_p=\left(\frac{\partial H(T,p)}{\partial T}\right)_p
\end{align}
と導けます。すなわち定圧熱容量は、体積が変わらない時のエンタルピーの温度変化に等しい、ということです。ここまで分かりましたが定積熱容量の時と同様にエンタルピーの明確な格好が全く分かっていないのでこれ以上の計算は出来ないままです。

定積熱容量と定圧熱容量の関係


定積熱容量と定圧熱容量の関係を考えてみましょう。現在までにそれぞれ
\begin{align}
C_V=\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial T}\right)_V,~C_p=\left(\frac{\partial H(T,p)}{\partial T}\right)_p
\end{align}
であることが導かれています。\(C_V, C_p\)は別のエネルギーで議論されているので同じエネルギーで議論したいと考えます。\(U\)に統一するとすれば\(C_p\)は、
\begin{align}
C_p&=\left(\frac{\partial H(T,p)}{\partial T}\right)_p \\
&=\left(\frac{\partial (U(T,p)+p V(T,p))}{\partial T}\right)_p \\
&=\left(\frac{\partial U(T,p)}{\partial T}\right)_p
+p\left(\frac{\partial V(T,p)}{\partial T}\right)_p \\
&=\left(\frac{\partial U(T,p)}{\partial T}\right)_p+p\left(\frac{\partial V(T,p)}{\partial T}\right)_p
\end{align}
と変形できます。すると、\(U\)を含む項があるので
\begin{align}
\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial T}\right)_V,~~\left(\frac{\partial U(T,p)}{\partial T}\right)_p
\end{align}
の関係が導ければよいと分かります。とりあえず内部エネルギー\(U\)の全微分をそれぞれの変数で考えてみましょう。
\begin{align}
dU(T,V)&=\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial T}\right)_V dT+\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial V}\right)_T dV \\
dU(T,p)&=\left(\frac{\partial U(T,p)}{\partial T}\right)_p dT+\left(\frac{\partial U(T,p)}{\partial p}\right)_T dp
\end{align}
です。それぞれの微小量で比較することが出来れば良い訳です。

\(dp\)の消去

\(dp=dp(V,T)\)であるので、\(dp\)の中に温度依存が含まれていることになります。そこで\(dp\)を\(dV,dT\)として表す変数変換を行います。すなわち
\begin{align}
dp(T,V)=\left(\frac{\partial p(T,V)}{\partial T}\right)_V dT+\left(\frac{\partial p(T,V)}{\partial V}\right)_T dV
\end{align}
を代入して
\begin{align}
dU(T,p(T,V))&=\left(\frac{\partial U(T,p(T,V))}{\partial T}\right)_{p(T,V)} dT+\left(\frac{\partial U(T,p(T,V))}{\partial p(T,V)}\right)_T dp(T,V) \\
dU(T,V)&=\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial T}\right)_{p(T,V)} dT+\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial p(T,V)}\right)_T \left[\left(\frac{\partial p(T,V)}{\partial T}\right)_V dT+\left(\frac{\partial p(T,V)}{\partial V}\right)_T dV\right] \\
&=\left[ \left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial T}\right)_{p(T,V)}+\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial p(T,V)}\right)_T\left(\frac{\partial p(T,V)}{\partial T}\right)_V \right] dT +
\left[\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial p(T,V)}\right)_T\left(\frac{\partial p(T,V)}{\partial V}\right)_T\right] dV \\
&=\left[ \left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_{p}+\left(\frac{\partial U}{\partial p}\right)_T\left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V \right] dT +
\left[\left(\frac{\partial U}{\partial p}\right)_T\left(\frac{\partial p}{\partial V}\right)_T\right] dV
\end{align}
となります。最後の式ではすべてが\(T, V\)の関数として表現されています。そのため、\(dT, dV\)に掛かる係数同士を比較して
\begin{align}
\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_V&=\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_{p}+\left(\frac{\partial U}{\partial p}\right)_T\left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V \\
\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T&=\left(\frac{\partial U}{\partial p}\right)_T\left(\frac{\partial p}{\partial V}\right)_T
\end{align}
となります。2番目の式の右辺は、結局左辺と同じになるので意味はない式です。1番目の式は内部エネルギーの定圧変化、定積変化の関係を述べています。
よって、定圧熱容量は
\begin{align}
C_p&=\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_p+p\left(\frac{\partial V(T,p)}{\partial T}\right)_p \\
&=\left(\frac{\partial U(T,V)}{\partial T}\right)_V-\left(\frac{\partial U}{\partial p}\right)_T\left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V +p\left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p\\
&=C_V-\left(\frac{\partial U}{\partial p}\right)_T\left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V +p\left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p
\end{align}
となることが導かれます。

\(dV\)の消去

\(dV=dV(T,p)\)であるので、\(dV\)の中に温度依存が含まれていることになります。そこで\(dV\)を\(dp,dT\)として表す変数変換を行います。すなわち
\begin{align}
dV(T,p)=\left(\frac{\partial V(T,p)}{\partial T}\right)_p dT+\left(\frac{\partial V(T,p)}{\partial p}\right)_T dp
\end{align}
を代入して
\begin{align}
dU(T,V(T,p))&=\left(\frac{\partial U(T,V(T,p))}{\partial T}\right)_{V(T,p)} dT+\left(\frac{\partial U(T,V(T,p))}{\partial V(T,p)}\right)_T dV(T,p) \\
dU(T,p)&=\left(\frac{\partial U(T,p)}{\partial T}\right)_{V} dT
+\left(\frac{\partial U(T,p)}{\partial V}\right)_T
\left[
\left(\frac{\partial V(T,p)}{\partial T}\right)_p dT+\left(\frac{\partial V(T,p)}{\partial p}\right)_T dp
\right] \\
&=\left[\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_{V}+\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T\left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p\right] dT
+\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T
\left(\frac{\partial V}{\partial p}\right)_T dp
\end{align}
となります。最後の式ではすべてが\(T, p\)の関数として表現されています。そのため、\(dT, dp\)に掛かる係数同士を比較して
\begin{align}
\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_p&=\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_{V}+\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T\left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p \\
\left(\frac{\partial U}{\partial p}\right)_T&=\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T\left(\frac{\partial V}{\partial p}\right)_T
\end{align}
となります。2番目の式の右辺は、結局左辺と同じになるので意味はない式です。1番目の式は内部エネルギーの定圧変化、定積変化の関係を述べています。よって、定圧熱容量は
\begin{align}
C_p&=\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_p+p\left(\frac{\partial V(T,p)}{\partial T}\right)_p \\
&=\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_{V}+\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T\left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p+p\left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p\\
&=C_V+
\left[p+\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T\right]\left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p
\end{align}
となることが導かれます。

\(dV\)と\(dp\)を消去した形式、どちらでも良いですが後者を採用します。少し変形して
\begin{align}
C_p-C_V=
\left[p+\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T\right]\left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p
\end{align}
と書けます。

ここまでで熱容量の話は終わりです。理想気体の場合、マイヤーの関係式と呼ばれる関係を書くことが出来ますが、混乱するので本稿では載せません。

エントロピーについて


エントロピーについての詳細は統計力学を元に考えたほうが分かりやすいのでここでは詳しくは書きません。
気体は原子・分子の集団です。エントロピーは気体が取り得る微視的な状態数(量子力学の固有状態数)によって決まる量です。

例えば気体を構成する原子数と、気体の温度、気体の持つ総エネルギーが与えられたとき、それらの条件を満たすような原子の組み合わせ数、という感じです。
具体例を挙げましょう。原子数が5個、総エネルギーが5Jでどのような分配の仕方が考えられるか?という問題です。イメージだけつかむことを目標にするので、温度は無視します。量子力学では1つの原子が持つエネルギーは離散的にしか存在できないのでここでは1J刻みにしか取れないと仮定します。この時、

a | 5 0 0 0 0
b | 1 1 1 1 1
c | 0 0 0 1 4
d | 0 0 0 0 5

といったような様々な組み合わせが考えられます。数字は原子1~5が持つエネルギーを意味します。エントロピーとは、この組み合わせの数の総数に関係する数です。組み合わせ数が多ければ多いほどエントロピーが大きいと言いますし、組み合わせ数が少なければエントロピーが小さいと表現します。

断熱系では、気体のエントロピーの変化はありません。\(d’Q=TdS\)であり、\(T\gt 0\)ですから、断熱的\(d’Q=0\)ならば\(dS=0\)となります。これが意味するのは、熱が加わらない準静的な過程ではエントロピーが保存量になっているということです。

最後に


問題をみてすぐさま変数が思い浮かぶことは無いので、練習を重ねたりトライアンドエラーを重ねましょう。上の例では一本道のように変数を決定していますが、私も別の変数を選んでしまいうまく表現できなくで何度も失敗しています。たまたまうまくいったのをあたかも最初から分かったように説明しているだけにすぎません。

注釈


※1
 イメージをする上では、気体を構成する粒子ひとつひとつが、すべて電気的に正に帯電していると考えても良いでしょう。正に帯電しているのだから、新しい粒子を入れるためにはエネルギーが必要です。この過程が断熱的で、体積変化が無いと想定すると、熱エネルギーでも力学的なエネルギーでもない別のエネルギーによって粒子が押し込められたということですよね。このエネルギーが化学ポテンシャルなのです。
 詳しく言うと、熱力学第一法則で言われる気体は中性気体が想定されており、この場合に限り化学ポテンシャルと呼ぶようです。電気的に帯電していることによるエネルギー変化は、電気化学ポテンシャルと呼ばれています。
 また、化学ポテンシャルの由来は何から来るか?という問いの答えは場合による、です。場合によっては例に示したように分子間力であるし、原子であれば分極が関係しているのかもしれません。場合によっては電気化学ポテンシャルも化学ポテンシャルと読んでしまう場合もあるでしょう。
 なので、粒子の流入に関係する様々な要因をひっくるめて化学ポテンシャルと呼んでいるようです。

※2
 「共役な」という意味は熱力学の世界ではエネルギーの次元を作る二つの変数の関係のことを言いますが、分野が異なると別の物を作る二つの変数の関係を指す言葉となります。複素解析では複素共役という言葉が用いられ、ある複素数とその共役な複素数を掛けた時に大きさになるような複素数の関係を指します。古典力学や量子力学では、位置と運動量の関係や、時間と周波数の関係のような関係を言ったりします。

※3
 \(p, V\)の中から一つを選択するのではなく、例えば新たな変数として\(p+cV, p-cV\)を選んだ時の熱容量を定義することも可能でしょう(\(c\)は定数)。しかし\(p+cV, p-cV\)は人間が分かりやすい量ではないので通常は用いません。また、\(p, V\)を選んでいっても、適当な操作で\(p+cV, p-cV\)の張る空間全てに辿り着くので、\(p, V\)のみに対する熱容量を考えるだけで良いです。

※4
定積熱容量なので\(T,V\)の変数を用いているヘルムホルツの自由エネルギー\(F(T,V)\)を元に議論を進めていくのが良いと思いますが、うまい具合に\(S\)について解けないのです。なので、\(dS\)を消去するという考えで行うと都合よく比較ができるのでそのように行っています。

参考文献


伊藤敏雄著『な~るほど!の力学』学術図書出版社(第1版11刷2009年, 初版1995年)
小出昭一郎著『物理学(改訂版)』裳華房(第25版1984年, 初版1975年)