リーマンのゼータ関数の複素力学系

本稿の目的はリーマンのゼータ関数を、ニュートン法による写像を用いて別の視点から見ることです。
綺麗な絵が得られる[1]ので自分のコンピュータ上で見てみたいと思いました。

複素力学系とは?


複素力学系とは、簡単に言えば写像のことです。
実関数による写像の繰り返しで得られる系を力学系と呼び、
複素関数による写像の繰り返しで得られる系を複素力学系と呼びます。
”力学”の言葉の由来はニュートン力学から来ています。

”ニュートン力学”は目に見えるくらいの物体を扱う学問ですが、その正体は時間に関する2階の微分方程式です。
なので、時刻\(t\)の物体の振る舞い\(x(t)\)からちょっとの時間\(\Delta t\)秒後の物体の振る舞い\(x(t+\Delta t)\)は、適当な時間発展をさせる演算子\(f\)によって
\(
x(t)\overset{f}{\longrightarrow} x(t+\Delta t)
\)
と移り変わります。これを何度も繰り返し作用させて任意の時刻\(t’\)まで時間発展させる事が出来ます。

\(
x(t)\overset{f}{\longrightarrow} x(t+\Delta t)\overset{f}{\longrightarrow} x(t+2\Delta t)\overset{f}{\longrightarrow}x(t+3\Delta t)\overset{f}{\longrightarrow} \cdots\overset{f}{\longrightarrow} x(t’)
\)
となると、ニュートン力学を性質を知ろうとするときに重要な情報は、演算子\(f\)初期値に集約されます。

演算子\(f\)の空間へどんどん写像していくわけですので、ある写像の繰り返しも力学のようだ、だから”力学系”という名前が付けられたわけです。
もう少し詳しく知りたければ、まずは[3]を読むと良いでしょう。

本稿では複素力学系の一つであるニュートン=ラフソン法によって得られる写像(ここでは便宜的にニュートン写像と呼ぶことにします)を考えます。

複素関数\(f(z)\)の具体的なニュートン写像の数式は以下で与えられます。
\(
\displaystyle N_f(z)=z-\frac{f(z)}{f'(z)}
\)

ある複素平面の初期値からスタートして、この写像を何回繰り返したら収束したか?をその系を特徴づける値とします。
要は、ニュートン=ラフソン法の初期値を複素平面上の全ての点を取り、収束するまでの回数をカウントするのです。

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ニュートン写像の具体例


本稿の目的はゼータ関数に対して行うことですが、まずは簡単な複素関数のニュートン写像を見てみましょう。
まず、複素関数
\(
\displaystyle f(z)=z^2-1
\)

を考えます。根の周り(\(z=\pm 1\))では収束回数は少なくなることが予想できます。実際にやってみますとこんな感じに。

非常に単調です。実部の値が正か負かでのみ特徴づけられるようです。

続いて、複素関数
\(
\displaystyle f(z)=z^3-1
\)

を考えます。根は\(z=1, e^{\pm i2\pi/3}\)。

3つは確かに分けられていますが、その境界辺りでは非常に奇怪な模様になります。

さらに、複素関数
\(
\displaystyle f(z)=z^4-1
\)

を考えます。根は\(z=\pm 1, \pm i\)。

ゼータ関数のニュートン写像


では、ゼータ関数に適応してみましょう。
ゼータ関数の導関数は導出方法とプログラムは[2],[9]/リーマンのゼータ関数の数値計算コード(複素平面)に追記したのでそちらをご覧ください。
するとこんなニュートン写像になります。

ゼロ点付近では収束が早くなっています。ゼロ点のある場所がマークしたところです。

カラーを対数にしますとこんな図に。

(2017/01/13 追記)
もっとほかの範囲のニュートン写像を見ていきます。

全体像

拡大その1(全体像の左側の四角)

拡大その2(全体像の右側の四角)

拡大その2, 高解像度版 highres_zetanewton.png (15MB)

元の画像はこちらからダウンロードできます。

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ゼータ関数のニュートン写像を得るfortran90のプログラムはこちらです。

ifort -O3 -qopenmp main.f90

計算範囲はxa,xb,ya,ybで指定されています。

参考文献


[1]Tomoki Kawahira “Riemann’s zeta function and Newton’s method: Numerical experiments from a complex-dynamical viewpoint”

[2]Tom M. Apóstol “Formulas for Higher Derivatives of the Riemann Zeta Function”, Math. of. Comp vol 44, 169, 1985, pp. 223-232.

[3]Chapter 14 力学系(補講1)

[4]ジュリア集合の色付けを工夫して芸術的なフラクタル図形を描く

[5]複素力学系, ニュートン法, ジュリア集合

[6]西沢清子, 藤村雅代 “多項式のニュートン写像における鉢の幅について(カオスをめぐる力学系の諸問題)”

[7]Riemann Zeta Function -wolfram mathworld

[8]ディガンマ関数の数値計算 -シキノート
[9]リーマンのゼータ関数の数値計算コード(複素平面) -シキノート


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